ネイティブアプリとWebアプリ、利便性から考えるアプリ開発
業務アプリを中心にPCやスマートフォンなどあらゆるデバイスのブラウザで利用できるWebアプリが増えています。Webアプリをネイティブアプリ化するハイブリッドアプリ、プログレッシブウェブアプリも使われ始めました。さまざまなアプリの形態を利便性の側面から考察します。
アプリの利便性を考える5つの視点
アプリは、仕事を効率化する業務アプリ、SNSや動画など一般的に楽しむアプリなどがあり、具体的な目的に合わせて切り替えて使い分けられます。
アプリの種類にもよりますが「技術的なことを知らなくても、すぐに使い始められること」が重要であり、利便性が求められます。利便性は使い勝手と言い換えられますが、ITの用語では「アクセシビリティ(accessibility)」として知られています。スマートフォンにはアクセシビリティの機能が搭載され、ジェスチャーや操作などを使いやすいように設定できます。
まずアプリの利便性について、5つの観点から考察します。
誰がアプリを使うのか
ユーザーにとって使い勝手がよいことが利便性の第一です。ユーザーとひとことで言っても、性別、年齢による世代、地域、職業、あるいは所得などによって異なります。キッズ向けのアプリ、若い世代のコミュニケーションのためのアプリ、高齢者向けのアプリのように、属性に合わせた利便性を考えるべきです。障がい者に対する配慮も必要です。耳が聞こえない人に向けては資格情報、目が見えない人には音声案内などの追加が利便性を高めます。
どのような目的で使われるか
アプリの快適さは目的によって異なります。煩雑な業務の効率化、友人とのコミュニケーション、最新情報のチェック、暇な時間をつぶすため、天気や目的までの経路を調べるためなど、さまざまな利用目的に合わせてアプリは作られています。検索結果を得たいだけであれば、アプリではなくてもWebサイトで事足ります。また、ニュースなどの情報はブラウザ上からもチェックできます。そのアプリを使わなければできない便利な機能、得られない情報や価値があることが重要です。
いつ、どこで、どのようなデバイスで使うのか
アプリをいつ(時間)、どこで(場所)、どのようなデバイス(端末)で使うのか、ということも大切です。仕事中のオフィスでPCを使ってアプリを開く場合と、混雑した通勤電車の中でスマートフォンの画面でアプリを開く場合では、利用環境が異なります。移動中にスマートフォンで操作する場合は、小さな画面を指で操作しなければなりません。
SNSのようなアプリでは、ブラウザ上の利用とインストールしたアプリの利用がほとんど同じように使えます。しかし、アプリを使う時間、使う場所に合わせて利便性を高める必要があります。
インターネット接続がどの程度求められるか
現在、インターネット接続を必要としないアプリは、ほとんどないといえるでしょう。しかし、通信環境が不安定な場所で利用できなくなるアプリは不便です。インターネットを介して端末からサーバーやデータベースに頻繁にアクセスして、プログラムを実行して読み込みの待機をするようなアプリは、利用者にストレスを感じさせます。インターネット接続に依存しすぎるアプリは利便性を損ないます。
安心、安全な状況で使えるか
インターネット接続にも関係しますが、たとえ便利なコンテンツであっても情報漏えいのリスクがあれば快適とはいえません。セキュアで安心安全な状況が確保されることも利便性を確保する大切な要素のひとつです。
アプリの形態と利便性
アプリ全体に対する利便性を考察しましたが、デバイスによってアプリを次の3つに分類して考察をしてみましょう。
・デスクトップアプリ
・モバイルアプリ
・Webアプリ
最初のデスクトップアプリは、Windows、Mac、LinuxなどのOSを搭載したPCにインストールして使うアプリです。次のモバイルアプリは、iOSやAndroidなどのOSを搭載したスマートフォンやタブレットにインストールして使うアプリです。一般的にモバイルアプリは、それぞれのアプリストアからダウンロードして使います。
最後のWebアプリは、クラウド上でSaaSとして提供されるブラウザ上で利用できるアプリです。ブラウザさえあればPC、スマートフォン、タブレットなど、あらゆるデバイスで利用できます。
モバイルアプリの現状と4つの形態
生活必需品ともいえるスマートフォンのアプリは以前から利用されてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、さらにモバイルアプリの利用が拡大しました。このように成長がめざましいモバイルアプリは、次の4つの形態があります。
・ネイティブアプリ
・Webアプリ
・ハイブリッドアプリ
・プログレッシブウェブアプリ(PWA)
それぞれの仕様と概要を解説します。
ネイティブアプリ
ネイティブアプリは、App StoreやGoogle Playなどのストアからダウンロードして、モバイル端末にインストールして使うアプリです。インストールしたアプリは、ホーム画面にアイコンが表示されます。iOSやAndroidなどのOSによるプラットフォームに最適化して開発されます。したがって、カメラやGPSなどの機能を最大限に活用できます。モバイルのOSや端末に最適化されていることから動作が速い特長もあります。
Webアプリ
Webアプリは、ブラウザ上で利用できるアプリをいいます。したがって、インターネットに接続してブラウザを使えるのであれば、PC、スマートフォン、タブレットなどさまざまな端末で利用可能です。古くからGmailやYouTubeなどがWebアプリとして使われてきました。WordやExcelと同じようにGoogleドキュメントが利用されていますが、これらもWebアプリです。クラウドの利用が拡大し、特にSaaSとして企業向けの業務アプリが使われるようになりました。
ハイブリッドアプリ
ネイティブアプリとWebアプリのよいところを兼ね備えたアプリです。Webサイトで運営していた情報提供や会員制サイトのサービスをアプリ化して導入するケースが多く、コストを抑えて短期間でアプリの開発が可能です。ブラウザ上でブックマークをしてもらっていたサービスをハイブリッドアプリ化すると、ホーム画面にアイコンを表示して使ってもらうことが可能になります。企業やサービスの認知度を上げ、ファンを増やす効果があります。
プログレッシブウェブアプリ(PWA)
プログレッシブウェブアプリは、Webサイトをアプリのように利用できる技術です。アプリストアを通さずにWebサイト上からインストールすると、ホーム画面にアイコンが表示されます。起動してWebサイトを閲覧できます。オフラインでも利用可能であることから、ハイブリッドアプリの弱点を補っています。プッシュ通知も利用できます。OSごとに開発する必要がなく、アプリストアへの登録が不要というメリットがあります。
ネイティブアプリの利便性
ハイブリッドアプリやプログレッシブウェブアプリも登場していますが、いずれもネイティブアプリとWebアプリを改善したものです。したがって、ネイティブアプリとWebアプリを比較しながら、メリットとデメリットを整理します。
まずネイティブアプリのメリットとデメリットです。
ネイティブアプリのメリット
ネイティブアプリのメリットは、次の3つです。
・デバイスをフル活用したコンテンツ
・オフラインであっても利用できること
・ホーム画面に表示されたアイコンから利用しやすい
スマートフォン独自のカメラ、GPS、プッシュ通知、加速度センサーなどの機能をフル活用できることはもちろん、ダウンロードによってリッチコンテンツを提供できます。インターネット接続を気にせずオフラインによる利用できることも特長です。
審査後にアプリストアのプラットフォームから配布されることは、アプリの信頼性をたかめます。ダウンロード後はホーム画面にアイコンが表示され、アプリを身近に感じてもらい、持続的な利用につながります。また、課金システムを構築しなくてもストアのシステムを使ってアプリ内課金ができるメリットもあります。
ネイティブアプリのデメリット
ネイティブアプリのデメリットには、次の3つがあります。
・ガイドラインに従って審査を通過しなければならない
・開発コストが高くなりがち
・リリース後のプロモーションの負荷が大きい
ストアで配布するためのガイドラインによって開発の自由度が制限されるとともに、厳しい審査を通過しなければならないことがデメリットです。既に公開されているアプリと機能やデザインが類似していた場合には審査からはじかれます。
また、ネイティブアプリではObjective-C、Swiftなどの開発言語を使えるノウハウが必要になり、開発コストが高くなりがちです。さらにリリース後は、アプリを使ってもらうためのプロモーションが求められます。ストアに掲載されたからといってダウンロードしてもらえるとは限りません。オンライン広告やキャンペーン展開などを実施する必要があります。
ネイティブアプリに向いているジャンル
RPGのゲームのように進捗にしたがってダウンロードして利用するコンテンツは、ネイティブアプリ向きといえるでしょう。コミックや電子書籍も人気があります。英会話やパズルなどエデュテイメントと呼ばれる教育系のアプリも適しています。
Webアプリの利便性
続いてWebアプリの利便性です。ネイティブアプリとの比較を中心、メリットとデメリットを挙げていきます。
Webアプリのメリット
Webアプリのメリットは、次の3つです。
・ブラウザを使って利用できる
・ストアの審査がない
・開発コストを抑えられる
Webアプリの最大のメリットはブラウザ上で利用可能であり、ダウンロードやインストールが不要なことです。
開発運用の立場からみると、ストアの審査がないため開発の自由度が高いことが挙げられます。また、Webアプリはサーバー上で一元管理が可能です。アプリに修正や更新があったとき、ネイティアプリの場合にはアップデート版をダウンロードしてもらう必要がありますが、Webアプリはサーバー上の更新作業で済みます。Webアプリは、一般的にネイティブアプリより開発コストを抑えられるメリットがあります。
Webアプリのデメリット
Webアプリには、次の3つのデメリットがあります。
・オフライン時の制限
・ネイティブアプリと比較して処理が遅い
・ホーム画面に表示されない
最大のデメリットは、インターネット接続に対する依存が大きいことです。クラウドアプリケーションの中にはオフラインで利用できるものもありますが、一般的にWebアプリは通信環境が悪い場所の利用に不向きです。また、モバイル端末やOSに最適化されたネイティブアプリと比較して処理が遅くなります。ユーザーの通信環境によって速度が左右される場合が多いため、UX(ユーザー体験)の側面から利便性を低下させることがあります。
また、ネイティブアプリはホーム画面にアイコンが表示されますが、Webアプリは表示できません。継続的に利用する場合はブックマークしたり、アプリのページを表示させたままにしたり、ブラウザ上で工夫する必要があります。ブラウザを閉じてしまえば検索や履歴を辿らなければならないため面倒です。
Webアプリに向いている機能
通信環境のよい場所で、リアルタイムの情報更新が必要になるアプリが向いています。業務アプリ、SNSなどがあります。PCと同じ画面をスマートフォンで見たい場合には、アプリという抵抗がなく使いこなせます。
Webアプリとネイティブアプリのこれから
ユーザーは快適な操作性を求めています。Webアプリからネイティブアプリを制作するハイブリッド化は、確かにコスト削減やリリースの迅速化などに役立ちます。しかし効率化を優先するあまりに、品質の低いアプリを提供しているケースが少なくありません。当然のことながら、こうしたアプリはストアにおけるユーザーの評価が低くなります。
ネイティブアプリにWebViewの機能を取り入れることにより、Webアプリ的な使い方ができるようになりますが、動作が重くなってアプリが落ちる問題が生じることもあります。品質を犠牲にしてまで、その機能が本当に必要かどうか検討すべきです。
ネイティブアプリとWebアプリのメリットとデメリットを解消するために、ハイブリッドアプリやプログレッシブウェブアプリも登場するようになりました。アプリを取り巻く開発の環境は変化しています。
まとめ
利便性の観点からいえば、継続的にユーザーに使ってもらうためには、品質の高いアプリをリリースすることが第一です。ネイティブアプリは、それぞれのプラットフォームに最適化され、読み込みが速く、審査を通じてクオリティが保証されています。Webアプリをハイブリッド化する際には、品質面の視点から見直す必要がありそうです。