「RFPの書き方」アプリ開発の品質が上がる無料テンプレ付き
RFP(Request For Proposal:提案依頼書)とは、発注者が開発会社に対して「どのようなシステムやアプリを開発してほしいか」を明確に伝えるための文書です。アプリ開発の業界では、発注側の要件定義の品質がプロジェクト成功率に大きく影響すると言われています。つまり、RFPの品質がそのままアプリ開発の成功に直結するといっても過言ではありません。以下は、RFPに記載スべき内容の概要です。
◆RFPに書くべき主な内容
- プロジェクトの背景と目的
- 予算と開発期間
- 具体的な機能要件と優先順位
- 技術要件や制約条件
- 納品物の定義
- 評価・選定基準
適切なRFPを作成することで、発注側と開発側の認識のズレを防ぎ、予算や納期、品質など様々な面でプロジェクトを上手く進めることができます。
本記事では東京のアプリ開発会社「株式会社ペンタゴン」の代表を務める筆者が、10年以上の経験をもとに、RFPの書き方や書くべき内容について詳しくご紹介します。
アプリの開発を検討中の方は、ぜひ株式会社ペンタゴンまでご相談ください。
アプリ開発におけるRFP(提案依頼書)のテンプレート
アプリ開発を成功させる第一歩は、優れたRFP(提案依頼書)の作成から始まります。期待通りの品質のアプリを適切な予算と期間で開発するためには、発注側と開発側の認識を合わせる必要があります。そのための重要な資料がRFPです。
とはいえ、はじめてアプリ開発を外注する担当者の方は、どういったRFPを作成したら良いかわからないと思うので、すぐに活用できるテンプレートを用意しましたので、ぜひ活用してください。
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発注時にRFP(提案依頼書)は必要?作るべき理由
「RFPの作成は手間がかかるし、本当に必要なのか?」と疑問に思われる方も多いでしょう。
結論から言うと、高い品質のアプリを確実に開発するためには、RFPの作成は欠かせません。なぜなら、RFPはプロジェクトの羅針盤としての役割を果たすからです。
RFPを作成する主な理由
理由1. 正確な要件伝達と認識のズレ防止できる
RFPは、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、発注側が望む成果物を得るための保険となります。アプリ開発は長期的なプロジェクトとなるため、要望やその回答は、常に書面で残すようにしましょう。発注者の明確なRFPは、アプリ開発におけるリスクを低減させることができます。
理由2. 適切な見積りの基盤となる
詳細な要件が明確になることで、開発会社はより正確な見積りを提示できます。これにより予算超過のリスクを減らし、プロジェクト管理の精度を高められます。
理由3. 複数の開発会社を公平に比較できる
同じ条件で複数の開発会社から提案を受けることで、以下の点を比較検討できます。
◆提案の比較ポイント
- 技術的なアプローチの違い
- 価格設定の妥当性
- プロジェクト管理手法の違い
- チーム構成や専門性の違い
これにより、単なる価格比較ではなく、プロジェクトに最適な開発パートナーを選定できます。
理由4. プロジェクト管理の指針となる
開発が始まってからも、RFPは以下のような役割を果たします。
◆金額だけじゃないRFPの役割
- 進捗確認の基準点
- 品質評価の判断材料
- 変更管理の基準
- 最終的な納品物の評価指標
アプリ開発におけるRFPは、発注者が実現したいこと、つまりは開発プロジェクトの指針となるものです。何か変更があった時や確認事項があった時に、RFPの要望を満たすのか照らし合わせて開発を進めることになります。
開発者側の視点から見たRFPの重要性
開発会社の視点からも、適切なRFPの存在は非常に重要です。
曖昧なRFPは、後になって「思っていたものと違う」というトラブルを招きかねません。
アプリ開発プロジェクトを進める上で、要件定義書の作成(発注者の注文を明確にする)も行い、認識の齟齬がないように開発側も気をつけますが、明確なPFPを出すことで、出戻りが少なく、発注者と開発者とでスムーズに合意形成を得ることができます。
◆開発会社が具体的なRFPを受け取ることで得られるメリット
- 要件の明確化:何を作るべきかが明確になり、無駄な手戻りを減らせます
- リスク評価:プロジェクトのリスクを事前に把握し、対策を講じることができます
- リソース配分の最適化:必要な技術や人員を適切に配置できます
- コミュニケーションコストの削減:基本的な認識を共有できるため、打ち合わせの効率が上がります
実際、RFPがしっかり書かれているプロジェクトほど、発注者と開発者はコミュニケーションがスムーズに取れ、最終的な成果物の品質も高くなります。
RFPが必須でない場合も
ただし、全てのケースでRFPが必須というわけではありません。例えば以下のような場合は、RFP作成前の段階から開発会社に相談するアプローチも有効です。
◆RFPが無くてもOKな場合
- アイデア段階の場合:まだ要件が固まっていない、コンセプト検証が必要な段階
- アジャイル開発の採用:反復的に開発を進め、要件を随時詳細化していく手法を取る場合
- 長期パートナーシップ:すでに信頼関係が構築された開発会社との継続的な開発
このような場合でも、基本的な要件や目的を整理した簡易版のRFPを用意しておくと、初期の打ち合わせや方向性の共有がより効率的になります。
株式会社ペンタゴンでは、要件が明確になっていない段階からのご相談も歓迎しています。これまでのアプリ開発実績を活かし、お客様のビジネス目標達成に向けた要件定義からしっかりサポートいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。
アプリ開発における「NG」なRFP(提案依頼書)とは
RFPは形式的に作成すれば良いというものではありません。開発現場の視点から見ると、以下のようなRFPは効果的に機能せず、プロジェクトの成功を妨げる可能性があります。
NG①機能要件が不明確または矛盾している
「使いやすいアプリにしてほしい」「SNSのような機能が欲しい」といった抽象的な表現だけでは、開発会社は具体的な実装方法を判断できません。
要望の曖昧さがアプリ開発の品質低下や予算超過の原因となります。
NG②予算とスケジュールが非現実的
アプリ開発の費用とスケジュールは、アプリ次第で大きく変わってきますが、目安は1000万円前後の開発で4〜6ヶ月です。アプリ開発の費用とスケジュールに関しては、次の記事で詳しく解説しています。
アプリ開発において、非現実的な予算やスケジュールは、プロジェクトの失敗リスクを高めます。
例えば、次のような弊害があります。
◆低予算・タイトなスケジュールによる弊害
- 開発の質の低下
- プロジェクトの途中挫折
- 発注側と開発側の信頼関係の崩壊
ちなみに、弊社では、費用の安い会社に依頼してしまって「アプリの不具合が多くて満足のいくものができなかった」「リリースが遅れに遅れ、まだリリースできてない」といったご相談が定期的に多数ございます。
そんなことにならないためにも、十分な予算とスケジュールを確保し、PRFを作成しましょう。
NG③優先順位が示されていない
全ての要件が同じ優先度で記載されていると、開発会社は何に注力すべきか判断できません。特に予算や期間に制約がある場合、優先順位の設定は不可欠です。
アプリ開発においては、機能を詰め込めば良いというものではありません。
むしろ逆に、ユーザーニーズを深堀りし、機能を厳選することこそがユーザー体験を高めることになります。
機能の優先順位を決めるのに困った際は「アプリ開発のレッドルートとは? 機能の優先順位を定める方法を解説」をご覧ください。
NG④目的とターゲットユーザーが不明確
「なぜこのアプリを開発するのか」「誰がどのように使うのか」が明確でないと、ユーザー体験設計の方向性が定まらず、結果として使われないアプリになるリスクがあります。
ターゲットユーザーが不明確だと、不要な機能を開発してしまい無駄になってしまう。
ターゲットとするユーザーのペルソナを設定するとともに、カスタマージャーニーマップなどを作成し、ユーザー像をプロジェクトチーム全体で共通認識として持ちます。必要とされる機能もカスタマージャーニーマップと照らし合わせて、本当に必要な機能なのか見極めることも重要です。
NG⑤技術的制約条件の記載がない
既存システムとの連携や特定のプラットフォームへの対応など、技術的な制約条件が記載されていないと、後から大幅な設計変更が必要になる場合があります。
自社システムや特定のシステムとの連携が必要な場合は、必ずRFPに記載するようにしましょう。
また、自社で特定の技術をなるべく採用するようにしている(例えば、インフラはAWSをメインに使っている)などがあれば、RFPに要望として記載しましょう。
良いRFPと悪いRFPの違い
では、良いRFPと悪いRFPの違いを以下の表で比較してみましょう。
◆良いRFP vs 悪いRFP
項目 | 良いRFP | 悪いRFP | 影響 |
機能要件 | ユーザーはメールアドレスとパスワードでログインできる。SNSアカウント(Facebook, Google)でのログインも可能とする。パスワードは8文字以上とし、英数字と記号を含める必要がある。 | ログイン機能を付けてほしい。 | 良いRFPでは開発者が具体的な実装方法を判断でき、セキュリティ要件も満たせます。悪いRFPでは解釈の余地が大きく、想定外の実装になるリスクがあります。 |
予算・スケジュール | 予算:800万円〜1,000万円(要件定義100万円、設計・開発700万円、テスト・リリース200万円)、期間:要件定義から3ヶ月間(要件定義2週間、設計・開発2ヶ月、テスト2週間) | できるだけ安く、できるだけ早く完成させたい | 良いRFPでは現実的な資源配分が可能で、開発会社も適切な体制を構築できます。悪いRFPでは予算超過や納期遅延のリスクが高まります。 |
優先順位 | 必須機能(P1):ユーザー登録、商品検索、購入機能 重要機能(P2):クレジットカード決済、注文履歴 オプション機能(P3):レビュー投稿、お気に入り登録 | すべての機能を実装してほしい | 良いRFPでは予算や期間に制約がある場合に何を優先すべきか明確です。悪いRFPでは全てが同じ優先度に見え、効率的な開発が困難になります。 |
目的・ターゲット | 20〜30代の女性向けアパレルECアプリ。時間がなくても手軽にショッピングを楽しめることが目的。ユーザーはファッションに関心が高いが店舗に行く時間がない忙しい女性を想定。 | 誰でも使えるECアプリが欲しい | 良いRFPではUI/UXの方向性が明確で、ターゲットに最適な体験を設計できます。悪いRFPでは焦点が定まらず、中途半端なアプリになるリスクがあります。 |
技術的制約 | 既存の在庫管理システム(API仕様書添付)と連携すること。iOSとAndroid両方に対応すること。オフライン対応必須。顧客データはAWSのサーバーに保存し、クライアント側には機密情報を保存しないこと。 | 特になし | 良いRFPでは技術的な制約を開発初期から考慮できるため、後からの大幅な設計変更を避けられます。悪いRFPでは開発後期に大きな問題が発覚するリスクがあります。 |
ここまでRFPの基本を解説したので、次の章では、具体的にRFPに書くべき内容について解説していきたいと思います。
アプリ開発におけるRFP(提案依頼書)で書くべき15の項目
良いRFPを作成するには、以下の15項目を網羅することが重要です。RFPの充実度がプロジェクトの成功に直結することを念頭に置き、それぞれの項目をできるだけ具体的に記述しましょう。
これから紹介する項目をRFPに記載することで、制作会社からより良い提案を受けられるようになります。
項目1. 発注の背景
現状の課題や問題点、なぜアプリ開発が必要になったのかの背景を記載します。この情報は開発会社がプロジェクトの文脈を理解し、最適な提案を行うための基盤となります。
◆記載例
背景
「当社はこれまで店舗での接客販売を中心に事業を展開してきましたが、コロナ禍でのEC需要の高まりと、顧客の購買行動の変化を受け、オンラインでの販売チャネルを強化する必要があると判断しました。
現状の課題
・店舗来店客数の減少(前年比-30%)
・若年層顧客のECシフト(実店舗での20代顧客の購入率が5年前の60%程度まで低下)
・競合他社のデジタル展開の加速
特に若年層のユーザーはスマートフォンでの購入を好む傾向が強く(当社アンケートでは20代の78%がスマホでの買い物を「よくする」と回答)、スマートフォンアプリの開発が必要と判断しました。」
項目2. 開発の目的
何を達成したいのか、どのような成果を期待しているのかを具体的な指標とともに記載します。目的が明確であれば、開発会社はそれに適した解決策を提案できます。
◆記載例
本アプリ開発の目的は以下の通りです。
主要目標
・スマートフォンユーザーに対して当社商品の購入体験を最適化し、モバイル経由の売上を現状の10%から24ヶ月以内に30%に引き上げる
・アプリを通じたCRM施策により顧客のリピート率を現状の25%から40%に向上させる
・店舗とオンラインの顧客データを統合し、パーソナライズされた販売促進を実現する
成功指標
・アプリダウンロード数:リリース12ヶ月後に10万DL
・アクティブユーザー率:月間アクティブユーザー率35%以上
・顧客単価:実店舗平均客単価の1.2倍以上
・コンバージョン率:カート追加後の購入完了率40%以上
項目3. 予算
プロジェクトに投資できる予算の範囲を明示します。できれば内訳も示すことで、開発会社は提案内容の優先順位を適切に設定できます。
◆記載例
本プロジェクトの予算は1,000〜1,500万円程度を想定しています。
予算内訳:
・要件定義・設計フェーズ:総予算の20%
・開発フェーズ:総予算の50%
・テスト・品質保証フェーズ:総予算の20%
・リリース・初期運用サポート:総予算の10%
これらの予算には、UI/UXデザイン、フロントエンド開発、バックエンド開発、APIの連携、テスト、App Store / Google Play Storeへの公開申請サポートまでを含みます。保守運用費は別途協議とします。
予算増減の可能性:
・提案内容により予算は10〜20%程度の増額調整が可能
・機能の優先順位付けにより予算内に収まるよう調整を希望
項目4. スケジュール
プロジェクトの開始時期、主要なマイルストーン、リリース希望日などを記載します。市場投入のタイミングが重要な場合は、その理由も含めると良いでしょう。
◆記載例
2025年6月の夏物商戦前にリリースすることを目標としています。
主要マイルストーン:
・2025年1月上旬:要件定義開始
・2025年1月下旬:要件定義完了、UI/UXデザイン開始
・2025年2月中旬:基本設計完了、詳細設計開始
・2025年3月上旬:詳細設計完了、開発開始
・2025年4月中旬:開発完了・社内テスト開始
・2025年5月上旬:ユーザーテスト(クローズドベータ)
・2025年5月下旬:リリース準備完了
・2025年6月上旬:App Store / Google Play Store公開
リリース時期の重要性: 6月リリースは夏物商戦に合わせたプロモーション展開と連携するため、この時期を厳守いただきたく存じます。
項目5. ターゲット層
アプリの主なユーザーとなる層の特徴や利用シーンを詳細に記述します。ペルソナを用いて具体的に示すと、より理解しやすくなります。
◆記載例
主なターゲットは、20〜40代の働く女性です。
ターゲットユーザーの特徴:
・都市部に住み、年収500万円以上の正社員または自営業
・ファッションに関心が高いが、店舗に行く時間が限られている
・スマートフォンでのショッピングに慣れている(月1回以上利用)
・Instagram等のSNSを日常的に利用している
・ブランドへの信頼性と商品の品質を重視する
主な利用シーン:
・通勤時間や休憩時間の空き時間での商品チェック
・週末の自宅でのまとめ買い
・特別なイベント前の衣装探し
ペルソナ例: サトウ ミカ(32歳・広告代理店勤務) 東京都在住、未婚、年収650万円。仕事は忙しいがファッションには気を使う。インスタグラムのフォロワー1,000人以上。週末は友人とのお出かけや展示会巡りを楽しむ。トレンドに敏感だが、値段と品質のバランスを重視する実用的な買い物志向。
項目6. 依頼内容
プロジェクトの全体像や依頼範囲を明確にします。開発だけでなく、企画やデザイン、運用サポートなども含むのかを記載します。
◆記載例
今回の依頼内容は以下の通りです
【必須範囲】
・アプリの企画
・要件定義サポート(ワークショップ2回を含む)
・UI/UXデザイン(ワイヤーフレーム、デザインカンプの作成)
・iOSおよびAndroidアプリの開発(ネイティブアプリ)
・管理画面の開発
・バックエンドAPIの開発(既存システムとの連携)
・品質保証(単体テスト、結合テスト、ユーザーテスト)
・App Store / Google Play Storeへの申請サポート
・リリース後3ヶ月間の技術サポート
【オプション範囲(予算に応じて検討)】
・アプリ利用分析システムの導入
・プッシュ通知配信システムの構築
・キャンペーン管理機能の実装
・アプリ利用マニュアルの作成【依頼に含まないもの】
・アプリストアのアカウント取得(当社で実施)
・アプリ内データの投入(商品写真等は当社で用意)
・リリース後のマーケティング施策(当社で実施)
次の記事でも、アプリ開発会社に外注できることや外注する時に注意すべきポイントについて解説しています。PFRの依頼内容を記載する際は、参考にしてください。
項目7. 機能要件
アプリに実装すべき機能を詳細に記述します。必須機能とオプション機能を区別し、優先順位を付けることが重要です。「アプリは育てていくもの」というイメージで、初期開発は必要最小限の機能に絞り込みます。アプリをリリース後、ユーザーのフィードバックを取り入れ、機能を追加していきましょう。
◆記載例
■必須機能(優先度:高)
・ユーザー登録/ログイン機能
・メールアドレス・パスワードによる登録
・SNSアカウント(Facebook, Google, Apple)連携ログイン
・ログイン状態の保持
・パスワードリセット機能
・商品検索/閲覧機能
・カテゴリ別商品一覧表示
・キーワード検索機能(商品名、素材、色等)
・詳細条件フィルタリング(価格帯、サイズ、色、新着順等)
・商品詳細表示(複数画像、サイズ、色、素材、在庫状況)
・関連商品表示
・カート/決済機能
・カートへの追加/削除
・複数商品の同時購入
・配送先住所管理(複数登録可能)
・クレジットカード決済
・QRコード決済(PayPay, LINE Pay)
・ポイント利用/付与
・アカウント管理機能
・注文履歴閲覧
・会員情報編集
・配送先管理
・支払い方法管理
■オプション機能(優先度:中)
・プッシュ通知機能
・新商品入荷通知
・セール開始通知
・注文状況通知
・お気に入り/閲覧履歴機能
・商品のお気に入り登録
・閲覧履歴の表示
■オプション機能(優先度:低)
・レビュー/評価機能
・星評価(5段階)
・コメント投稿
・画像投稿
・商品レコメンド機能
・閲覧履歴ベースのレコメンド
・購入履歴ベースのレコメンド
・人気商品表示
項目8. 非機能要件
非機能要件とは、セキュリティ、パフォーマンス、可用性など、機能以外の品質要件を記載します。これらはアプリの信頼性や使いやすさに直結する重要な要素です。非機能要件は、要求レベルが高くなればなるほど、費用が高くなるため、要求レベルは慎重に検討する必要があります。
非機能要件は、システム・アプリ開発を始めて依頼する人には難しい内容となるので、専門家と相談しながら決定するのが良いでしょう。
◆記載例
【セキュリティ要件】
・個人情報および決済情報は暗号化して保存すること
・通信はすべてHTTPS(TLS 1.2以上)で行うこと
・アプリケーションレベルでの脆弱性対策を実施すること
・アクセストークンの有効期限設定と定期的な更新機能の実装
・バイオメトリクス認証(指紋認証、顔認証)のサポート
【パフォーマンス要件】
・アプリ起動時間:3秒以内 ・画面遷移:1秒以内
・商品一覧の表示:50件まで2秒以内に表示完了
・商品詳細の表示:1.5秒以内
・検索結果の表示:3秒以内
・初期ダウンロードサイズ:iOS、Androidともに50MB以下
【可用性要件】
・24時間365日の稼働を前提とし、計画メンテナンス以外のダウンタイムは月間1%以下に抑えること
・計画メンテナンスは月1回、深夜帯(AM 2:00-4:00)に実施
・バックエンドシステムの冗長構成によるサービス継続性の確保
【拡張性要件】
・将来的なユーザー数の増加(最大10万DAU)に対応できる設計
・新機能追加の容易な設計(モジュール型アキテクチャ)
・多言語対応を見据えた設計(日本語・英語を初期サポート)
【対応プラットフォーム】
・iOS:iOS 15.0以上
・Android:Android 9.0以上
・対応デバイス:iPhone SE以降、主要Androidスマートフォン
【オフライン対応】
・不要
項目9. 保守運用要件
リリース後の運用体制や保守サポートの範囲、SLA(サービスレベル合意)などを明確にします。運用保守の要件も、非機能要件と同様に、要求レベルが高くなるほど費用がかかるため、要求レベルは慎重に検討しましょう。
◆記載例
【保守期間】
・初期保守期間:リリース後12ヶ月間(基本契約に含む)
・延長保守:12ヶ月単位で別途契約
【障害対応】
・重大障害(サービス停止):24時間以内に初動対応、48時間以内に解決
・中程度障害(主要機能停止):48時間以内に初動対応、72時間以内に解決
・軽微な障害(機能低下):5営業日以内に対応
【システム監視】
・24時間365日のシステム監視(サーバー負荷、API応答時間、エラー率等)
・異常検知時の自動アラート
・月次のパフォーマンスレポート提供
【バージョンアップ対応】
・OSのメジャーアップデートへの対応(年2回程度)
・セキュリティアップデート(脆弱性発見時は優先対応)
・軽微な機能改善(四半期に1回程度)
【運用サポート】
・技術的問い合わせ対応(平日10時〜18時、メールベース)
・緊急時の電話サポート ・月次定例会議の実施(オンライン)
・運用マニュアルの提供と更新
【データバックアップ】
・日次バックアップの自動実行
・バックアップデータの30日間保持
・障害時の復旧手順の確立
アプリの運用保守費について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
項目10. 設計や開発における要件
開発手法、使用技術、コーディング規約など、開発プロセスに関する要件を記載します。アプリ開発における技術的な知識が不足している方は、こちらの記事をご覧ください。アプリ開発におすすめなプログラミング言語・フレームワークをプロが紹介
また、社内の既存システムやアプリがあれば、どんな言語、フレームワークで作成されているのか調査し、それに合わせるのも良い選択肢です。
◆記載例
【開発手法】
・ウォーターフォール開発
【開発言語・フレームワーク】
・iOS・Android:Dart、Flutter
・バックエンド:Node.js、Express
・データベース:PostgreSQL
・クラウド環境:AWS
【品質保証プロセス】
・手動によるシナリオテスト
・セキュリティテスト(脆弱性スキャン)
・パフォーマンステスト(負荷テスト)
【コード管理】
・GitHubを使用したバージョン管理
・プルリクエストでのコードレビュー実施
・CI/CDパイプラインの構築
【ドキュメント】
・設計ドキュメントの作成・更新
・API仕様書(OpenAPI形式)
・テスト計画書・結果報告書
・運用手順書
項目11. 納品物
成果物として納品されるべきものを明確にリストアップします。ソースコードだけでなく、ドキュメントやテスト結果なども含めます。
◆記載例
【ソフトウェア】
・iOSアプリのソースコード一式
・Androidアプリのソースコード一式
・バックエンドシステムのソースコード一式
・管理画面のソースコード一式
【ドキュメント】
・要件定義書(最終版)
・システム設計書(基本設計書、詳細設計書)
・データベース設計書(ER図、テーブル定義書)
・API仕様書(エンドポイント一覧、リクエスト/レスポンス形式)
・画面設計書(画面遷移図、各画面の機能説明)
・テスト仕様書および結果報告書
【環境構築・運用関連】
・開発環境構築手順書
・テスト環境構築手順書
・本番環境構築手順書
・バックアップ・リストア手順書
・運用マニュアル
・システム監視設定
【デザイン関連】
・UIデザインデータ(Figmaまたは同等のツールのプロジェクトファイル)
・アイコン、スプラッシュ画面等の素材データ
・スタイルガイド
【その他】
・プロジェクト計画書(最終版)
・議事録 ・課題管理表(解決済み・未解決の課題一覧)
・マイルストーン達成報告書
項目12. 選定基準
開発会社を選定する際の評価基準や重視するポイントを明記します。これにより適切な提案が集まりやすくなります。選定基準を伝えることで、開発会社側もアピールすべきポイントが明確になるので、適した情報を提出できるようになります。
◆記載例
以下の基準で評価を行い、開発パートナーを選定します。
【技術力・実績(40%)】
・アパレル/EC分野のアプリ開発実績
・類似規模・性質のプロジェクト経験
・提案されるアーキテクチャの品質と適切さ
・主要メンバーの経験と専門性
【提案内容(25%)】
・要件の理解度
・UI/UXへのアプローチ
・技術的課題への解決策の提示
・独自の付加価値提案
【プロジェクト管理(15%)】
・開発手法とプロセスの明確さ
・スケジュール管理手法
・リスク管理手法
・コミュニケーション計画
【サポート体制(10%)】
・保守運用体制
・問題発生時の対応力
・ドキュメント整備方針
・ナレッジ移転計画
【価格(10%)】
・予算内での実現性
・コストパフォーマンス
・追加コスト発生時の透明性
実績を証明するための過去の開発事例(ポートフォリオ)の提示をお願いします。また、プロジェクトに実際に携わる予定のメンバー構成と経験についても記載ください。
項目13. 提案に関する情報
提案書の提出期限、プレゼンテーションの有無、質問の受付方法など、提案プロセスに関する情報を記載します。
◆記載例
【提案スケジュール】
・RFP公開日:2025年1月5日
・質問受付期間:2025年1月5日〜1月10日
・質問への回答公開:2025年1月12日
・提案書提出期限:2025年1月20日 17:00必着
・一次選考結果通知:2025年1月25日
・プレゼンテーション:2025年1月30日〜2月1日(各社45分:30分発表+15分質疑)
・最終選考結果通知:2025年2月5日
・契約締結・キックオフ:2025年2月中旬
【提案書形式・提出方法】
・提案書形式:PDF形式、30ページ以内 ・提出方法:電子メールによる提出(添付ファイルまたはダウンロードリンク)
・宛先:project@example.com
・件名:「アパレルECアプリ開発提案書_会社名」
【提案書に含めるべき内容】
・会社概要(実績、強み、開発体制)
・プロジェクト理解と解決策の提案
・開発アプローチとスケジュール
・プロジェクト体制と主要メンバーのプロフィール
・主な技術スタックと選定理由
・デザインアプローチと事例
・テスト方法と品質保証プロセス ・保守運用体制
・見積もり(内訳を含む)
・リスク管理計画
【質問方法】
質問はメールにて受け付けます。
・宛先:question@example.com
・件名:「アパレルECアプリ開発RFP質問_会社名」
・質問はExcel形式で取りまとめ、添付してください
※すべての質問と回答は匿名化した上で、すべての提案参加者に共有します。
項目14. 契約条件
支払い条件、知的財産権の帰属、機密保持など、契約に関する重要な条件を記載します。特に、準委任契約なのか請負契約なのかについては明確にしておきましょう。請負契約の場合、開発者側に契約不適合責任(瑕疵担保責任)が発生するため、見積もり費用に大きな影響を与えます。
◆記載例
【支払条件】
・契約時:30%
・開発中間報告時:30%
・検収完了時:40%
・支払期日:各マイルストーン承認後、請求書受領月の翌月末払い
【知的財産権】
・開発されたソフトウェア(ソースコード含む)の著作権は、検収完了後に当社に帰属するものとします
・開発会社が既に保有する汎用的なライブラリやフレームワーク(既存資産)については、開発会社に著作権を留保し、当社は無償で永続的に利用できる権利を取得するものとします
・第三者のライブラリやOSSを使用する場合は、事前に許諾を得ることとし、ライセンス条件を明示すること
【機密保持】
・プロジェクト情報および当社から提供される一切の情報は機密情報として取り扱うこと
・機密保持契約(NDA)の締結を求めます
・プロジェクト完了後も5年間は機密保持義務を負うものとします
【瑕疵担保責任】
・納品物の瑕疵担保期間は検収完了後12ヶ月間とします
・この期間内に発見された仕様に適合しない不具合については、無償で修正対応するものとします
【権利侵害の保証】
・納品物が第三者の知的財産権を侵害していないことを保証すること
・侵害が発覚した場合は開発会社の責任と費用で解決するものとします
【再委託】
・業務の一部を再委託する場合は、事前に書面による承諾を得ること
・再委託先の行為についても開発会社が全責任を負うものとします
項目15. トラブル時の対策
開発中や納品後に問題が発生した場合の対応方針を記載します。これにより、トラブル発生時のリスクを軽減できます。アプリの公開後、実際ユーザーが使ってみると不具合が発生したり、ということがあります。いくらテストをやっていても不具合は発生するものだと思ってください。不具合が発生した時の対応スピードについて開発者と認識があっていないと、対処が遅い、というトラブルに繋がります。
◆記載例
【スケジュール遅延への対応】
・進捗に遅れが生じた場合は、発覚した時点で直ちに当社に報告すること
・2週間以上の遅延が見込まれる場合は、原因分析と共に対策案を提示すること
・対策案には、追加リソースの投入、範囲の調整、優先順位の見直し等を含めること
・最終納期遅延のリスクが高まった場合は、週次での進捗報告を実施すること
【仕様変更への対応】
・仕様変更が生じた場合は、影響範囲(工数、コスト、スケジュール)を明示した上で協議
・変更管理プロセスを確立し、双方の承認を得た上で実施すること
・大規模な変更については、別途変更契約を締結
・小規模な変更については、一定の変更バッファ(全体工数の10%程度)を見込んでおくこと
【品質問題への対応】
・重大な品質問題が発生した場合は、24時間以内に初期対応し、原因調査に着手すること
・テスト工程で検出された重大なバグについては、優先的に修正対応すること
・品質目標未達の場合は、追加テストや改善策を実施すること
【コミュニケーション問題への対応】
・プロジェクト開始時に、コミュニケーション計画(連絡手段、報告頻度、エスカレーションルート)を合意
・定例会議(週次)を設定し、進捗報告と課題共有を行うこと
・緊急連絡先リスト(両社)を作成し、非常時の連絡体制を確保すること
【納品後の不具合対応】
・納品後の不具合は、重要度に応じた対応時間を設定
緊急(サービス停止):24時間以内に対応着手
高(主要機能不全):3営業日以内に対応着手
中(機能一部不全):1週間以内に対応着手
低(軽微な問題):次回アップデート時に対応
・重大な不具合の場合は、回避策の提示と恒久対策の両方を実施すること
・不具合の再発防止策を文書化し、共有すること
以上、これら15の項目を網羅することで、開発会社にプロジェクトの全体像を正確に伝えることができ、適切な提案を受けられる可能性が高まります。もちろん、プロジェクトの規模や性質によって、重点を置くべき項目は異なりますので、状況に応じた調整が必要です。
プロが教えるアプリ開発のRFP(提案依頼書)を書く際のコツ
ここでは、より効果的なRFPを作成するためのコツを紹介します。こうした工夫により、開発会社からより質の高い提案を受け、最終的には期待通りのアプリ開発を実現できる可能性が高まります。
ポイント①要件を明確に記載する
RFPでもっとも重要なのは、要件の明確さです。曖昧な表現は避け、具体的に記述することが重要です。
× 「使いやすいUIにしてください」
〇 「高齢者(65歳以上)でも迷わず操作できるよう、ボタンは最小でも44px×44px以上のサイズとし、文字は最小16pxのサイズで、主要な操作手順は3ステップ以内にすること」
具体的な数値や客観的な指標を用いることで、開発会社の解釈によるブレを防ぎます。
ポイント②重要な項目における追加の依頼は避ける
RFP作成後、特に開発が始まった後の重要な要件の追加は、コストの増加や納期の遅延を招く主な原因となります。
最初から完璧なRFPを作ることは難しいですが、少なくとも核となる重要な要件については、十分な検討を重ねた上でRFPに含めるようにしましょう。要件の変更が避けられない場合は、変更管理プロセスを明確にしておくことも重要です。
◆変更に強いRFPを作るポイント
- 機能要件のMoSCoW分析(Must have、Should have、Could have、Won't have)を行い、優先順位を明確にする
- 変更が発生した場合の手続きと影響評価プロセスを事前に定める
- 予算とスケジュールに一定のバッファ(10〜15%程度)を設ける
ポイント③選定基準を書いておくとスムーズ
開発会社を選定する際の評価基準を明記することで、より適切な提案を受けやすくなります。
「過去のアプリ開発実績を重視する」「デザイン力を特に評価する」「アジャイル開発の経験を重視する」など、あなたが重視するポイントを示すことで、開発会社側も提案内容を最適化できます。
これにより、ミスマッチを減らし、プロジェクトに最適な開発パートナーを選びやすくなります。
ポイント④テンプレートを活かしつつも、テンプレートに縛られすぎる必要はない
この記事で紹介している構成やテンプレートは、RFP作成の指針として活用してください。しかし、全ての項目を埋めなければならないというわけではありません。
プロジェクトの性質や規模に応じて、PRFに必要な項目を選択し、カスタマイズすることが重要です。
例えば、次のようにプロジェクトの規模や特性に応じて、気をつけるべき点が異なります。
- 小規模なプロジェクト:簡潔なRFPでも十分な場合があります。最小限必要な項目としては、目的、機能要件、予算、スケジュール、納品物の定義が挙げられます。
- 大規模・複雑なプロジェクト:技術的な詳細や移行計画、リスク管理、ガバナンス体制などをより詳しく記載する必要があるでしょう。
- アジャイル開発の場合:細かい機能要件よりも、プロダクトビジョンや開発プロセス、コラボレーション方法に重点を置くべきかもしれません。
アプリ開発において優れたRFPを作成することは、プロジェクトの成功に直結します。株式会社Pentagonでは、お客様のビジネス目標を実現するための最適なアプリ開発をサポートしています。RFPの作成からお悩みの方も、ぜひお問い合わせください。デザイン性に優れた使いやすいアプリ開発のプロフェッショナルが、企画段階からサポートいたします。
まとめ:RFP完成度チェックリスト
最後に、すぐに活用できるRFP作成のためのチェックリストをご紹介します。このチェックリストを使って、あなたのRFPが必要な情報を網羅しているか確認してみましょう。
- プロジェクトの背景と目的が明確に記載されている
- ターゲットユーザーと利用シーンが具体的に定義されている
- 機能要件が具体的かつ優先順位付けされている
- 非機能要件(セキュリティ、パフォーマンス等)が明示されている
- 予算範囲と内訳が示されている
- 現実的かつ具体的なスケジュールが提示されている
- 納品物が明確に定義されている
- 技術的制約条件が記載されている
- 選定基準が明示されている
- 提案プロセスの詳細(締切、形式等)が記載されている
- 契約条件(支払い、知的財産権等)が明確である
- 保守・運用要件が定義されている
- リスク管理と変更管理のプロセスが確立されている
- 連絡体制とコミュニケーション方法が示されている
- 質問受付の方法が記載されている
質の高いRFPを作成することは、アプリ開発プロジェクトの成功率を大幅に高めます。ある程度時間をかけて丁寧に作り込むことで、結果的には開発の効率化、コスト削減、そして何より期待通りの高品質なアプリの完成につながるのです。
RFP作成でお困りの点や、アプリ開発に関するご質問があれば、専門知識と豊富な実績を持つ株式会社Pentagonにぜひご相談ください。私たちは単なる開発パートナーではなく、お客様のビジネス成功に向けた戦略的パートナーとして、企画段階からトータルでサポートいたします。