アプリの保守移管とは?移管時のトラブル回避と成功のコツ

保守移管は、対応が不十分なベンダーとの契約や技術的な限界により、やむを得ず実施されることもあれば、コスト最適化や品質向上のために戦略的に行われることもあります。スムーズな移管のためには「情報整理」「引き継ぎ体制の構築」「ベンダー選定の眼」などが重要です。本記事では、保守移管の背景や進め方、起こりうるトラブルとその対策について詳しく解説します。

本記事は、アプリ開発・保守を数多く手がけてきた「株式会社ペンタゴン」のエンジニアである筆者が、現場で培った知見をもとに執筆しています。実際の移管支援やトラブル対応の経験を踏まえ、実務に役立つ情報をお届けします。本記事を通して、移管に不安を抱える方が安心して次のステップへ進めることを目指しています。

【この記事の監修者】山本 真矢 株式会社Pentagonの代表取締役社長
経歴:Y-Combinator StartUp School / Arizona State University / 2013年からスタートアップを中心に様々な企業のアプリ開発を支援。2018年に株式会社Pentagonを設立。2023年アプリ開発高速化する特許を取得(7184410)。アプリやWebサービスの開発に関する情報をYouTubeでも配信しています。
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アプリの保守移管はどういう場合に実施すべき?

アプリの保守移管は、以下のような状況で検討されることが一般的です。

◆保守移管をする時

  • 開発会社との契約終了・関係悪化
  • サポート対応が不十分/レスポンスが遅い
  • 開発会社が保守を引き受けられなくなった(廃業・撤退)
  • 内製化や他社への保守業務一元化を検討している
  • コスト最適化の観点から保守体制の見直し

開発会社との契約終了や対応力不足、または技術者の退職などにより、既存の保守体制が維持できなくなるケースは少なくありません。特に、突発的な不具合やOSの仕様変更に対して迅速に対応できない場合、ユーザー体験を大きく損なうリスクがあります。

一方で、現在の保守ベンダーに明確な不満がなくとも、アプリの成長段階や戦略の変化に応じて、よりコストパフォーマンスの良い体制に切り替える選択肢を検討する企業も増えています。保守移管は、単なる対処療法ではなく、ビジネス全体を最適化する方法として位置付けることも可能です。

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アプリの保守移管を進める流れ

保守移管は大きく次の4つの手順で進めます。

◆アプリの保守移管を進める流れ

  • 現状の把握
  • 移管先の選定
  • 保守移管の実施
  • 移管先での業務の開始

それではそれぞれの手順について詳しく解説します。

手順① 現状の把握

最初のステップは、現在のアプリ保守状況を正確に把握することです。具体的には、ソースコード、インフラ環境(クラウド構成、データベース設計など)、CI/CDパイプライン、外部API連携状況などの情報を整理します。

この段階でドキュメントが整っていない場合も多いため、現行ベンダーへのヒアリングや画面ベースでの機能洗い出しを行い、移管先が正しく状況を把握できるようにすることが重要です。

また、現状の課題や保守移管をする目的もここで整理しておきます。

手順② 移管先の選定

次に、保守を引き継ぐ新たな開発会社を選定します。移管対応の経験があるか、ネイティブ言語・フレームワークの知識が豊富かどうか、保守対応の実績やスピード、トラブル時の対応体制などを確認することが重要です。

提案段階で簡易的なコードレビューや、想定される改善点のフィードバックを依頼することで、その企業の技術力や姿勢を見極めることも可能です。

手順③ 保守移管の実施

移管の実施フェーズでは、アカウント情報やソースコード、DBアクセス権限、CI設定などの「技術的な資産の移行」に加え、ドキュメントや運用フローなどの「業務的な知見」の引き継ぎも行います。

スムーズな移管には、現行ベンダーとの協力体制が不可欠です。協力が得られない場合は、法的な義務や契約内容を再確認しながら、必要最低限の情報だけでも確実に押さえておく必要があります。

手順④ 移管先での業務の開始

移管完了後は、監視体制や障害対応フローを確立したうえで、軽微な機能修正やバグ対応など、実際の保守業務をスタートさせます。

この初期対応の中で新ベンダーがシステム構造を理解し、より効果的な保守・改善提案を行えるようになります。できれば、移管後1~2週間で簡易な改善タスクを依頼し、実装と検証を通じて相互理解を深めていくことが望ましいです。

アプリの保守移管をスムーズに進めるために必要な4つのこと

保守移管を成功させるには、単に情報を移すだけでなく、運用上のあらゆる面において整備・調整を行うことが不可欠です。以下に、スムーズな移管を実現するための4つの重要なポイントを紹介します。

ポイント① 資料やドキュメントの整備状況の確認

移管先の企業がアプリの構造や仕様を理解できるよう、設計書・画面遷移図・API仕様・ユーザーフローなどの資料を整備することが基本です。特に、コードコメントやDB設計図が乏しい場合には、引き継ぎ時にその部分を重点的に補足する必要があります。 

また、運用に関するドキュメント(アカウント管理方法、障害対応履歴、日々の運用ルールなど)も意外と忘れられがちなポイントです。形式が整っていなくても構いませんので、ナレッジを言語化し、簡易的なドキュメントとして残すことで、後々の混乱を防ぐことができます。

ポイント② 管理権限やAPIキーなどのセキュリティ対策の移行


Firebase、AWSなどのクラウドサービスに関するアクセス権限の移譲が滞ると、業務が止まるリスクがあります。アカウント単位でのアクセス制御を行い、旧ベンダーが退場後に不正アクセスできないよう、ログや認証設定も見直しておきましょう。 さらに、移管後の新しい体制での権限管理ポリシーを策定しておくと、第三者とのやりとりや緊急対応時にも安心です。重要な情報については共有ファイルにまとめ、アクセスログ付きで管理するなど、情報セキュリティ対策を組み込む意識が求められます。

ポイント③ 移管先企業との定期的な打ち合わせやプロジェクト管理体制の構築

引き継ぎ期間中は特に、チャットやミーティングによる密な連携が求められます。初期のタスク管理にはBacklogやJiraなどのプロジェクト管理ツールを用い、合意形成を図りながら進行することが理想です。 

保守移管は「準備しながら進める」性質が強いため、完璧に整理された状態を目指すよりも、現実的なタスクを優先度順に並べ、柔軟に対応していけるような体制づくりを心がけましょう。

ポイント④ 移管期間中の予算とスケジュールの見積もりと調整

見積もりが甘いと、移管の途中でコストや人員が不足し、プロジェクトが停滞する可能性があります。現行業務の棚卸しを行い、スケジュールには十分なバッファを設けることが大切です。 

とくに、旧ベンダーとの調整に時間がかかるケースや、移管先が仕様を把握するまでに時間がかかることを見越して、フェーズを2〜3段階に分けたスケジュール設計が有効です。

これらを事前に整えておくことで、引き継ぎ後に発生しがちな混乱を防ぎ、スムーズな体制移行が可能になります。

アプリの保守移管で発生しがちなトラブルとは?

保守移管は、事前にしっかりと準備を行っても、思わぬトラブルが発生する可能性があります。以下では、実際に起こりがちなトラブル事例とその対策について解説します。

トラブル① 資料やドキュメントが見つからない

引き継ぎ時に必要な仕様書や設計書、運用マニュアルなどがそもそも存在しない、または古くて役に立たないというケースは非常に多く見られます。これにより、新しいベンダーが仕様を理解するのに時間がかかり、作業の遅延やミスの原因になります。

対策: 引き継ぎ前に、既存ベンダーとともに資料の一覧を作成し、欠けている情報はヒアリングで補完します。画面キャプチャベースの簡易マニュアルを作成するだけでも、大きく効果があります。

トラブル② 現在の保守担当企業が協力してくれない

契約上は協力する義務がある場合でも、実際には非協力的な態度を取るベンダーも存在します。引き継ぎに必要な情報の提供が遅れたり、口頭説明のみで書面を残さなかったりするケースもあります。

対策: 契約書に「引き継ぎ協力義務」や「退場時の資料提出義務」などを明記しておくことが重要です。交渉が難航する場合は、法律専門家の助言を受けながら慎重に対応しましょう。

トラブル③ 元のアプリの品質が低い、作りが独特で移管が難しい

技術的負債が多い、非推奨のライブラリを使っている、構成が一般的でないといった場合、移管先がそのアプリを正しく理解・保守するのに時間とコストがかかります。

対策: 保守移管の前に、簡易なコードレビューやセキュリティ診断を実施し、技術的リスクを洗い出します。その上で、初期の1〜2ヶ月はリファクタリングを含めた保守対応期間とし、段階的に運用を安定化させる方針を取るのが現実的です。

このようなトラブルを未然に防ぐためにも、形式的な「引き継ぎ」だけでなく、実態に即した綿密な準備とリスクヘッジの視点が必要です。

アプリの保守移管において必要となる費用は?

保守移管を進めるうえで気になるのが「どれくらいの費用がかかるのか」という点です。以下に、保守移管時に発生しやすい主なコスト項目を紹介します。

費用① 調査・ヒアリング・ドキュメント整理のコスト

現行ベンダーとの打ち合わせや、仕様の再整理にかかる時間や人件費です。ドキュメントが不十分な場合は、現物確認や画面遷移の書き起こし作業が発生し、その分コストが膨らむことがあります。

費用② 引き継ぎ作業に関わるエンジニア工数

ソースコードの確認、インフラのアクセス設定変更、セキュリティ対策など、移管時に必要な技術的作業へのエンジニア工数が含まれます。特にアプリの構成が複雑な場合、技術的負債の解消も含めて50〜100時間以上かかるケースもあります。

費用③ 初期保守体制の構築コスト

移管先が業務を本格開始する前に、監視ツールの設定、障害対応フローの構築、改善提案の準備などが必要です。これらをセットアップするための準備期間(1〜2ヶ月)を見積もっておくと安心です。

費用④ 月額保守費用の見直し

保守移管後、月額の保守費用も変動する可能性があります。一般的には、アプリの規模や稼働ユーザー数、サーバー環境の構成によって変わりますが、10〜30万円程度が相場です。対応範囲(緊急対応含むか否か)によって上下するため、内容を明確に定義することが重要です。

これらの費用は、移管の目的や規模によっても大きく変わるため、事前に複数社から見積もりを取り、内容を比較検討することをおすすめします。

アプリの保守移管先となる開発会社はどのように選ぶ?

保守移管の成否を分ける最大のポイントは「移管先の選定」です。新規開発とは異なり、既存アプリの仕様を正確に読み解き、トラブルなく引き継ぐためには、豊富な実績と技術力、そして柔軟な対応力を備えた企業である必要があります。

以下は、移管先を選定する際に確認すべき代表的なポイントです。

ポイント① 保守・引き継ぎ対応の実績があるか

他社が開発したアプリを引き継いだ経験がある企業は、仕様の読み解きや引き継ぎ業務に慣れており、安心感があります。実績として「複雑な仕様のアプリ」「短期間での移管成功例」などがあればなお良いでしょう。

ポイント② ネイティブ言語やフレームワークへの対応力

アプリがSwiftやKotlinなどのネイティブ言語で構築されている場合、その技術に習熟したエンジニアがいることが必須です。FlutterやReact Nativeなどクロスプラットフォームの技術に偏っている会社では、保守対応が難航する可能性があります。

株式会社ペンタゴンでは、SwiftやKotlinを用いたネイティブアプリの保守移管実績があり、アクティブユーザー10万人を超えるアプリの運用も引き継いでいます。

ポイント③ セキュリティと運用体制の整備状況

アカウントの管理、ログ取得、監視体制、障害発生時の対応スピードなど、運用に関わる体制がしっかり整っているかを確認しましょう。保守は開発と異なり、安定稼働を維持するための継続的な業務が中心となるため、トラブル時の対応プロセスは特に重要です。

ポイント④ 改善提案や技術的な診断ができるか

保守は「壊れたものを直す」だけではなく、「より良くする」ことも求められます。引き継ぎ直後に改善提案が出せるか、ソースコードやUI/UXの観点から課題を発見・提案できるかといった、提案力・診断力も大きな評価軸です。

株式会社ペンタゴンでは、保守移管後もOSアップデート対応、セキュリティ改善、ユーザビリティ向上など、継続的な改善支援を行っており、単なる引き継ぎではなく運用の質を高めるパートナーとしての役割を担っています。

アプリの保守移管に関するQ&A

Q. アプリの保守移管を行う意味や目的は?

A. 保守移管は、アプリの安定運用を継続するために必要な措置です。既存のベンダーに技術的な対応力やリソースが不足している場合や、コストを最適化したいとき、あるいは戦略的に運用体制を見直したいときなどに実施されます。ユーザーへの影響を最小限に抑えながら、より良い体制へ移行するのが目的です。

Q. アプリの保守移管を行うメリットは?

A. 主なメリットには以下が挙げられます:

  • 対応スピードや品質の改善
  • 技術力の高いチームによる対応
  • コスト構造の見直しと最適化
  • 継続的な改善提案やアプリの進化に繋がる


現在の保守体制に課題がある場合は、移管によって課題が解決され、より高い成果を得られる可能性があります。

Q. 保守移管において必要となる資料、ドキュメントとは?

A. ソースコード、環境構成図、インフラのアクセス情報、API仕様書、運用マニュアル、利用しているサービスやライブラリ一覧などが必要です。これらが揃っていることで、スムーズな移管と保守業務の立ち上げが可能になります。

Q. セキュリティにおける注意点は?

A. 特に重要なのはアカウントや権限の移譲です。旧ベンダーが持っていたアクセス権限を適切に引き継ぎ、退場後は不要なアクセスを遮断する必要があります。また、APIキーや認証トークンなど機密情報の更新も推奨されます。ログ取得と監査も定期的に行うと安心です。

Q. 移管にはどのくらいの期間がかかる?

A. 一般的には1〜2ヶ月が目安ですが、アプリの規模やドキュメントの整備状況、旧ベンダーの協力度合いによっても大きく異なります。段階的な引き継ぎと、検証フェーズを設けることでリスクを減らすことができます。

この記事を参考に、アプリの保守移管の準備や体制の見直しを進めてみてはいかがでしょうか。
もし「現在の開発会社とのやり取りが不安」「移管先を探しているが判断がつかない」といった課題がある場合は、
保守移管やアプリ運用支援の実績が豊富な株式会社ペンタゴンにご相談ください。

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Posted by 山本 真矢