マイクロコピーとは?アプリ開発においてUXを短い言葉で改善する方法を解説
アプリのボタンに記載されている文字や補足の文章を変えるだけで、ユーザビリティを改善できることをご存知でしょうか。これがマイクロコピーの効果です。UXライティングの観点を踏まえて、マイクロコピーとは何か、インターフェースのどこに設置すればよいのか、成功事例や作成するときのポイントなどをまとめました。
マイクロコピーとは
マイクロコピーはUI(ユーザーインタフェース)で使われる短い文章を呼びます。ボタン自体の表現のほかに、ボタンの下に短い文章を記載してユーザーの行動を促す場合などがあります。
たとえば、ボタンの表記が「実行」と「はじめる」では、まったく印象が変わります。「実行」は機能主体の表記ですが「はじめる」はユーザーの行動からやさしい言葉に変えています。ボタン表記ひとつであっても、ユーザー視点から表現を見直すことでユーザーの好感度を上げることが可能です。
特にWebサイトの会員登録などのボタンや入力フォームでは、短い言葉であっても大きな影響力があり、ユーザーのアクションを後押しするために効果的です。CVR(コンバージョンレート)を高め、2文字を変えただけで成約率を1.5倍も増加させた事例もあります。
マイクロコピー登場の背景
続いてマイクロコピーが登場した背景を解説します。Webサイトによる会員登録やECサイトからの購入が増えた結果、いかに集客して登録もしくは購入のアクションをしてもらうかということが重要になりました。このようなニーズからWebサイトのインターフェースが見直された結果、マイクロコピーは、元HubspotのUXデザイナーであるジョシュア・ポーター氏が紹介して拡がった概念といわれています。
あらゆる機器がインターネットに接続される現在、ユーザーの情報をトラッキングしてマーケティングやアプリの改善のための活用が進んでいます。マイクロコピーは定量的なデータとして効果を計測できることから、注目されている手法のひとつです。
マイクロコピーとUXライティングの違い
マイクロコピーとUXライティングは混同して使われることの多い言葉ですが、UXライティングのひとつとしてマイクロコピーを位置づけるとよいでしょう。
ユーザー操作をトラッキングしてデータを収集できることがマイクロコピーの特長です。一方でUXライティングは、効果測定ができなかったとしても快適に使ってもらうために作られた文章全体を指します。
たとえば、UXライティングの場合は、アプリ内におけるユーザーに対するガイダンス、操作をサポートする文章のほか、起動時に「目標達成まであとわずか!」のような短いエールを送る文章も含まれます。起動時間に合わせて「おはようございます」「こんばんは」のような挨拶のメッセージを送ることもUXライティングのアイデアといえます。
UXライティングとコピーライティングの違い
商業的なライティング分野では、コピーライティングがよく知られています。コピーライティングとマイクロコピーを含むUXライティングの違いを整理します。
コピーライティングの目的は、広告やセールスプロモーション(SP)の領域で見込み客に認知してもらい、購買行動を起こさせることです。UXライティングの目的は、アプリやWebサイトにおいてボタンを押したり情報を入力させたり、快適なユーザー体験をもたらすことです。このようにライティングの目的がまず異なります。
次に、コピーライティングは広告や宣伝における感性に対する訴求が中心です。特にキャッチコピーでは、感性を揺さぶる表現が求められます。UXライティングは、ユーザーを導くための論理的な表現と、より自然な行動を起こさせるための価値の提供が求められます。その意味から、UXライティングはマニュアルを執筆するときのテクニカルライティングと重なるといえるでしょう。
広告や宣伝に使われるコピーライティングと操作を促すUXライティングは異なります。
マイクロコピーを設置する場所
UXライティングについて触れてきましたが、続いてマイクロコピーに焦点を絞って解説します。アプリ内でマイクロコピーを設置する効果的な主な場所には、以下があります。
・ログイン・ログアウト画面
・アプリのプッシュ通知
・入力フォーム
・課金ボタン
・退会ボタン など
その他、UXのライティングの観点からいえば、プログレスバーや待ち時間のローディング・インディケーターなどにもマイクロコピーが使われます。
マイクロコピーの代表的な事例
マイクロコピーはWebサイトの登録を促すボタンやフォームで使われて効果があったことから注目されました。代表的な事例をピックアップします。
オバマ大統領のメルマガ購読促進
2012年の米国大統領選挙で、オバマ氏を当選に導く要因のひとつとしてメルマガ購読ボタンの改善が大きな成果をあげました。方法としては、文章による違いを定量的な効果として計測するために、オリジナルの「SIGN UP」を含めてボタンに記された記載を以下の4つに分けて比較したそうです。
・SIGN UP(登録する)
・JOIN US NOW(すぐに参加する)
・LEARN MORE(さらに情報を知る)
・SIGN UP NOW(今すぐ登録する)
同一のアクセス数で比較した結果として、最も読者を集めることができたのは「LEARN MORE(もっと情報を知る)」でした。「SIGN UP」と比較して18パーセント登録者が増えました。またWebサイトの右上に表示されたボタンの「Donate(寄付する)」を「Contribute(貢献する)」に変えただけでも10パーセントの向上がありました。
参考:40.6%改善!オバマ元大統領の選挙戦から学ぶマイクロコピー事例(マイクロコピーライティング協会)
Amazonの会員登録促進
Amazonのユーザーであればお馴染みかもしれませんが、プライム会員登録の促進に使われている「30日間無料トライアル」というボタンがマイクロコピーの事例としてよく取り上げられれています。このボタンについて考察すると、以下の3つが効果的に使われていることがポイントではないかと考えられます。
・無料による「ベネフィット(利益)」の訴求
・30日という「期間」の訴求
・キャンセル可能を補足する「安心」の訴求
多くのユーザーを引き付けるのが「無料」というお得感です。さらに期間を限定することによって訴求力が強まります。スーパーなどの特売で使われている常套手段ではありますが、時間、場所、数量などによって限定することで「いま購入しなければチャンスを逃してしまう」という動機づけをしているわけです。
一方で、ユーザーには「一度登録したらやめられないのだろうか?」という不安があります。この不安を解消するために、ボタン下にキャンセル可能の文章を補足。また、30日間の終了後は有料会員に移行することも付け加えて注意を促しています。
Pairsの会員登録促進
恋活・婚活マッチングアプリのPairsでは、「今すぐ無料ではじめる」のボタンをクリックすると、QRコードによるアプリのダウンロードと「LINEではじめる」「Facebookではじめる」のボタンを配置したウインドウを表示させて登録を促します。「始める」ではなく、ひらがなを使うことにより柔和なイメージづくりを行っています。
また、マイクロコピーと合わせてボタンのビジュアルデザインとしてLINEは緑、Facebookは青のボタンを配置し、使い慣れたアプリを連想させて直感的に選べるようにしています。当然のように思うかもしれませんが、こうした細部の工夫がユーザーにとって自然な登録を促す導線になります。
マイクロコピーが重要である3つの理由
事例の紹介においても既に触れましたが、あらためてマイクロコピーの重要性を3つの観点から解説します。
マイクロコピーはユーザビリティの向上や、ボタンを押させて員登録などを促進するほか、記載する文章によって製品ブランドを統一する効果があります。定量的な効果はもちろん、ブランドイメージを向上させる定性的な効果にも注目すべきです。
ユーザビリティの向上
ユーザーのメリットを端的な文書で示して行動を動機づけするとともに「このボタンを押しても大丈夫だろうか?」という不安を取り除きます。動機づけと不安の軽減という両側面をフォローすることが理想ですが、プラス面の訴求だけでも効果があります。マイクロコピーは、アプリ内でユーザーが快適な体験をするためのナビゲーションを果たします。
課金、登録、フィードバック促進と利用の拡大
ユーザビリティを高めることにより、新機能の活用、アプリ内課金の利用拡大、フィードバックの促進など、アプリを積極的に使ってもらえるようになります。数値的な計測が可能なことから、善の結果を評価しやすいこともメリットです。
アプリの改善といえばバグフィックスとアップデートが代表的ですが、UI上のあらゆるテキストの改善も考慮するとよいでしょう。インターフェース上の表現をユーザー視点から見直すことにより、大きな改善効果を得られる場合があります。
ブランドイメージの統一
業務用アプリのボタンであれば「承諾」のような、ビジネス上の堅苦しい表現がふさわしいかもしれません。しかし、消費者向けのエンターテイメント系のアプリなら「OK!」のほうが親しみやすく感じます。誰に向けて、どのような状況で使われるか考えた上で、アプリ全体の表現を統一すると、製品のブランドアイデンティティが明確になります。競合他社の製品に対する差別化としても効果があります。
デザインの品質は「細部に宿る」といわれます。デザイン戦略のひとつとしてUIにおける文章の細部まで徹底してこだわることが重要です。
マイクロコピーを作成するときの4つポイント
マイクロコピーを含むUXライティングは、購買行動の喚起を目的として感情や感性に訴えるコピーライティングとは本質的に異なります。また「マイクロ」であることから、なるべく文字数が短いことが求められます。単刀直入に理解できる言葉に磨き上げていくためのポイントを整理しました。
具体的な言葉を入れる
「申し込み」だけでは何を申し込むのか分かりません。トライアル利用なのか、メルマガ購読なのか、コミュニティへの参加なのか具体的にボタンに記載します。ユーザーがそのボタンを押すことにより何ができるのかを明確にすることが基本です。
ベネフィット訴求する
そのボタンを押すと「どうなるか」ではなく「どのような利益を得られるか」を記載します。無料でサービスが使える、特別な価値が得られるといったイメージを喚起する言葉を使います。「30日間無料」「50%オフ」のような数値を使った具体的な言葉を選ぶと効果的です。
タイミングなどを限定して行動を促す
キャンペーンと連動している場合は、タイミングを訴求すると効果があります。「3月31日まで割引」という表現です。カウンターを設置して、残り時間を表示させるとより訴求力を高めることが可能です。期間のほかに個数(数量)を限定する方法も王道であり、こちらも残りの個数をカウンターで表示させる手法が使えます。
気軽さ、フレンドリーな言葉を使う
「実行」「承諾」のような堅苦しい言葉や専門用語ではなく、ユーザーに親しみやすく気軽に操作できる言葉を用います。ただし、アプリの利用用途やジャンルによってふさわしい言葉を選ぶことが大切です。
英語やカタカナの表記を使うと冷たく感じられることがあります。場合によっては「さあ、はじめよう!」のように呼びかけの言葉を使う方法も考えられます。オバマ氏のメルマガ戦略で、最も反応率が高かったメルマガの件名は「Hey」だったそうです。
ユーザーの不安やリスクを取り除く
ユーザーが抱きやすい不安やリスクを先読みして文章で補足して安心させます。大勢の人が使っていることを訴求する方法も効果的であり、現在の利用者数を具体的に数字で記載すると説得力があります。既に利用しているユーザーの声を掲載する方法も信頼性を高める効果的です。ビジネスアプリであれば導入した大企業、コンシューマー向けのアプリであれば著名人やオピニオンリーダーの声が安心感を高めます。
まとめ
UXライティングそしてマイクロコピーはアプリのユーザビリティを改善し、活用してもらうために有効なテクニックのひとつです。アプリのデザイン戦略や企業ブランド戦略を踏まえて、テキストだけでなくフォント、色、形状、操作に合わせた動き、残り時間や個数などのカウンター機能といった演出を含めてデザインすると、さらに効果が望めます。
株式会社Pentagonでは、UXライティングそしてマイクロコピーの改善に関わるさまざまなご要望にお応えします。お困りのことがございましたら、ぜひご相談ください。
アプリ開発においてデザインは内製すべき?外注すべき?疑問を解決