アプリ開発者が本音で語る「Flutter」のメリットとデメリット
Flutterは、Googleが提供するクロスプラットフォーム開発ツールで、iOSとAndroidアプリを1つのコードベースで開発できる強力なフレームワークです。しかし、どんなツールにもメリットとデメリットがあります。本記事では、アプリ開発会社「株式会社ペンタゴン」で代表を務める筆者が、「Flutterのメリット・デメリット」について詳しく解説します。
早速ですが、筆者が考えるFlutterの主要なメリット・デメリットは次の通りです。
◼️Flutterのメリット・デメリット比較表
メリット | 開発工数が約1/2に削減可能 ホットリロード機能で開発スピードが向上 豊富なライブラリで機能追加が容易 |
デメリット | OS独自機能を多用する場合、効率が低下 OS固有の不具合はデバッグが困難 熟練エンジニアが少なく人材確保が難しい |
本記事ではこれらについて具体的に掘り下げていきますが、結論からお伝えしますと、Flutterはデメリットよりもメリットの方が大きいフレームワークであると言えるでしょう。
当社、株式会社ペンタゴンでは2019年頃からFlutterを積極的に採用しておりますが、特にFlutterのデメリットによってトラブルが発生したり、ということはありません。また「Flutterアプリの国内事例12選!大手のFlutter移行も紹介」でも紹介していますが、日本の多くの有名アプリがFlutterで開発されています。
それでは、これらを具体的に掘り下げていきます。
Flutterを活用したアプリの開発を検討中の方は、ぜひ株式会社ペンタゴンまでご相談ください。
Flutterでアプリを開発する3つのメリット
それでは、まずFlutterでアプリを開発する3つのメリットについて、アプリ開発の専門家の視点から解説していきます。
メリット①開発工数が約1/2に削減可能
Flutterでは、iOSとAndroidの両プラットフォームで同じコードベースを利用できるため、従来のネイティブ開発と比べて開発工数を大幅に削減できます。たとえば、ネイティブ開発で2人月かかる作業がFlutterの場合1人月で完了するケースも珍しくありません。
実際、当社のお客様の中でも、ネイティブ言語でのアプリ開発における保守コストを課題と感じ、ネイティブ言語からFlutterへ移行してアプリを再開発した事例があります。ネイティブで開発されたアプリは、iOSとAndroidが別々のプログラムで作成されているため、変更や修正にはそれぞれのプログラムを修正する必要があります。しかし、Flutterで開発したアプリなら、一度の変更でiOS・Android両方を同時に修正可能です。
従来はOSごとに別々に行う必要があった作業(UI調整やバグ修正など)を1回で済ませられるため、エンジニアリソースやコストの削減が期待できます。
通常、ネイティブ開発ではiOS用にSwiftまたはObjective-C、Android用にKotlinまたはJavaを用いてプラットフォームごとに特化したコードを書く必要があります。これに対し、FlutterはDart言語を使用し、単一のコードベースから両プラットフォームで動作するアプリを生成できます。
ネイティブ開発の場合
- iOS用のログイン画面を構築:1週間
- Android用に同じログイン画面を構築:1週間
- 合計:2週間
Flutter開発の場合
- 単一コードベースでログイン画面を構築:1週間
- 合計:1週間
このように、プラットフォームごとに重複する作業が不要になるため、作業量を最大で50%削減することが可能です。
メリット②ホットリロード機能で開発スピードが向上
Flutterのホットリロード機能は、コードを変更した後にアプリ全体を再ビルドする必要がなく、変更内容を即座にエミュレーターやデバイス上に反映できる技術です。このホットリロード機能が開発プロセスの効率を劇的に向上させる理由について解説します。
従来のネイティブ開発では、UI変更のたびにアプリを再ビルドし、変更内容を確認するまでに数分かかることが一般的です。一方、Flutterのホットリロード機能では、コード変更後に「保存」を行うだけで、数秒以内にその結果をリアルタイムで確認できます。
これにより、以下のような利点が得られます。
- ボタン配置や配色の調整が即座に確認でき、試行錯誤を高速化。
- クライアントやデザイナーからのフィードバックに迅速に対応可能。
具体的なホットリロードの効果を紹介しましょう。
たとえば、あるプロジェクトで以下の比較を行いました。
従来のネイティブ開発 | Flutter開発(ホットリロード利用) | |
ビルド時間平均 リロード時間平均 | 3分 | 3秒 |
1日のビルド回数 1日のリロード回数 | 20回 | 100回 |
合計待ち時間 | 60分 | 5分 |
このプロジェクトでは、1週間あたり4時間以上の開発時間が削減され、ホットリロードによりプロジェクト全体の工数が15%削減されました。
メリット③豊富なライブラリで効率化
Flutterは公式ライブラリとサードパーティライブラリが非常に充実しており、これがアプリ開発の効率化を大幅に支えています。これらのライブラリは、開発のスピードを上げるだけでなく、開発コストの削減や品質向上にも寄与します。
ライブラリを利用することで、ネイティブ開発に比べて工数を大幅に削減できます。ライブラリを使用することでの工数削減の具体例をご紹介します。
例1:チャット機能の開発
ネイティブ | サーバーとの通信処理、UIの構築、リアルタイム更新機能の実装を個別に対応する必要があり、 開発期間が約1か月かかることが一般的。 |
Flutter | 「stream_chat_flutter」ライブラリを使用すれば、リアルタイムチャットを数日で構築可能。 |
削減効果: 約75%の工数削減
例2: 決済機能の実装
ネイティブ | StripeやPayPalのSDKを個別に組み込む作業が必要。 |
Flutter | 「flutter_stripe」ライブラリを活用すれば、決済機能を1週間以内で実装可能。 |
削減効果: 約50%の時間短縮
Flutterでアプリを開発する3つのデメリット
ここまでFlutterのメリットを紹介してきましたが、Flutterには多くの利点がある一方で、特定の条件下ではいくつかの課題や制約が発生します。
デメリット① OS独自機能を多用する場合、効率が低下
Flutterは単一のコードベースでクロスプラットフォーム開発を可能にします。しかし、iOSやAndroidのOS固有機能を多用するアプリでは、追加でネイティブコードを記述する必要が生じる場合があります。その結果、プラットフォームごとにコードを書く必要があるため、開発効率が低下する可能性があります。
具体的な例をご紹介します。
例えば、高度なカメラ制御を行いたい場合、標準的なカメラ機能は「camera」プラグインで対応できますが、例えばiOSでのライブフォーカス調整やAndroidでのカスタムフィルターなど、OS固有の機能を使う場合は追加のネイティブコードが必要です。こうした場合、OSごとに異なる実装をしなければならず、Flutterの強みである「単一コードベースの効率性」が損なわれる可能性があります。
Flutterとネイティブコード追加の比較表
Flutter | ネイティブコード追加 | |
OS固有機能の利用 | 一部プラグインで代替可 | ARKit、Wear OS、カスタムカメラ機能などの場合 |
実装時の効率 | 単一コードベースで効率的 | OSごとに実装が必要 |
メンテナンス性 | Flutterのバージョン管理のみ | Flutter + ネイティブ言語それぞれのバージョン管理が必要 |
学習コスト | Dartの習得で完結 | Dart + Swift/Objective-C、Kotlin/Javaの知識 |
Flutterでのアプリ開発では、Flutterの恩恵を最大化するために、既存のFlutterプラグインやサードパーティ製ライブラリを活用し、OS固有機能の実装範囲を最小化するよう要件を調整する必要があります。ネイティブ実装が必要な場合は、iOSやAndroidのネイティブ開発に詳しいメンバーと協力体制を整え、早期に対応できるようにします。
デメリット② OS固有の不具合はデバッグが困難
FlutterはiOSやAndroidのネイティブコードを抽象化して操作します。この抽象化のため、OS固有のバグや非互換性が原因で問題が発生した場合、その原因特定や修正の難易度が高くなります。
なぜなら、Flutterは独自のレンダリングエンジン(Skia)を使用してUIを描画するため、OS固有のレンダリングや挙動の違いが直接的に見えにくい設計になっているからです。また、Flutterが最新のOS機能やAPIをサポートするまでにタイムラグが発生することもあり得ます。
◆OSアップデート後の不具合
Androidの新しいバージョンで特定のウィジェットの描画が乱れるバグが発生した場合、Skiaの挙動やネイティブコードとの互換性に起因している可能性があります。こうした場合、バグの原因特定に時間を要することがあります。Flutterの問題なのか、OSの問題なのかを切り分ける必要があり、原因の特定に時間がかかります。
◆プラグインの非互換性
OSアップデート後に、Flutterのサードパーティプラグインが動作しなくなるケースがあります。これにより、プラグインがアップデートされるまでの間、アプリの一部機能が使えなくなるリスクがあります。
こうしたリスクに対処するためには、Flutterの公式ドキュメントやコミュニティで、特定バージョンの既知の不具合を把握しておく必要があります。また、テスト環境を充実させ、主要なOSバージョンで動作確認を徹底することも必要でしょう。さらに、サードパーティプラグインを利用する際は、定期的なメンテナンスが行われているライブラリを選定するように心がけましょう。
デメリット③熟練エンジニアが少ない
Flutterは比較的新しい技術であり、エンジニアの実務経験が十分に蓄積されていないため、大規模プロジェクトの立ち上げ時などに人材確保が課題となることがあります。2018年に正式リリースされたばかりで歴史が浅く、SwiftやKotlinといった他のフレームワークと比べてもエンジニアの経験年数が短い傾向があるうえ、Flutter特有のDart言語を扱える人材も限られているのが現状です。
こうした背景から、熟練したFlutterエンジニアの不足が原因でプロジェクトの進行が遅れたり、経験の浅いエンジニアが中心となることでコード品質や設計・パフォーマンス面に問題が生じたりするリスクが高まります。
これらの課題に対応するためには、まず社内のエンジニアを対象にしたトレーニングを実施し、Flutterのスキルを習得・強化する取り組みが必要です。また、採用戦略を見直して、Flutterに限らずDartやその他のクロスプラットフォーム技術の経験を持つエンジニアを採用し、プロジェクトを通して成長してもらう方法も有効でしょう。
さらに、フリーランスやFlutterに特化した開発会社と連携することで、社内のリソースを補完し、人材不足を解消する手段として活用することができます。
Flutter以外のフレームワークとの比較
Flutterのメリット・デメリットを理解したところで、他の主要なクロスプラットフォーム開発フレームワークと比較してみましょう。適切な技術選定を行うために、React Native、Xamarin、との違いを整理します。
◆主要フレームワーク比較表
項目 | Flutter | React Native | Xamarin |
---|---|---|---|
開発元 | Meta(旧Facebook) | Microsoft | |
言語 | Dart | JavaScript / TypeScript | C# |
UI描画方式 | 独自のレンダリングエンジン(Skia)を使用し、ネイティブに依存しないUI描画 | ネイティブコンポーネントをブリッジ経由で呼び出す | ネイティブUIラッパーを利用(Xamarin.Formsは抽象化、MAUIで進化中) |
パフォーマンス | 高速。独自レンダリングで一貫したパフォーマンス | 中程度。ブリッジ通信のオーバーヘッドあり | ネイティブに近いが抽象化レイヤーが影響 |
開発効率 | ホットリロードで高速開発可能。UI設計しやすい | ホットリロード対応。Webエンジニアに馴染みやすい | C#/.NET知識があれば効率的だが、学習コスト高め |
エコシステム / ライブラリ | 急速に拡大中。Google公式サポートが厚い | 豊富なライブラリ(ただし品質にばらつきあり) | .NETエコシステム利用可能。公式サポートは安定的 |
学習コスト | Dartの習得が必要(比較的簡単) | JavaScript/TypeScript経験者に優しい | C#/.NETが必要(比較的重量級) |
デザイン再現性 | 高い(プラットフォーム差異が少ない) | プラットフォーム依存で差異が出やすい | 基本はOS標準UI。統一感よりもネイティブ感重視 |
コミュニティ / 事例 | 世界的に急成長中、日本でも事例増加 | Web出身の開発者に人気。事例豊富 | 大企業での利用事例はあるが新規採用は減少傾向 |
将来性 | Googleの積極的投資。安定成長が見込まれる | Meta依存だが、OSSで広く支えられている | .NET MAUIに移行しつつあり、Xamarin単体は縮小傾向 |
適したケース | 高品質なUI/UXを重視するアプリ(BtoC向け、デザイン重視) | MVP開発やWeb資産活用が強みのアプリ | 業務システム・Microsoft系の技術スタックと連携するアプリ |
この表を参考に、Flutterを採用したいと考えた方に向けて、Flutterを採用する際の注意点を紹介します。
Flutterを採用する際の3つの注意点
Flutterを採用する際に特に注意すべき3つのポイントについて解説します。
注意点① OS固有機能の実装コスト
ARKit(iOS)やWear OSとの連携など、プラットフォーム固有の高度な機能を利用する場合は、ネイティブコードでの追加実装が必要になります。プロジェクト開始前に必要な機能をリストアップし、Flutterの標準プラグインで対応できるかを調査しましょう。Flutterで対応できない機能は、ネイティブ実装工数を見積もりに含める必要があります。
注意点② 人材確保とスキル習得
Flutterエンジニアの不足は、特に大規模プロジェクトや短期開発で問題となります。プロジェクト開始の3か月前から採用活動を開始し、モバイル開発経験者も対象に含めましょう。社内育成では、Flutter公式のトレーニングプログラムを活用し、外部のFlutter専門会社との協業体制も検討することが有効です。
注意点③ バージョンアップデート管理
Flutterは活発に開発が進むため、定期的なアップデートが行われ、既存コードに影響を与える変更が含まれることがあります。プロジェクトで使用するFlutterバージョンを明確に定め、アップデートは段階的に実施しましょう。サードパーティプラグインは定期的にメンテナンスされているものを選定し、代替プラグインの候補も事前に調査しておくことが重要です。
総合的に見てFlutterの採用はアリ?
ここまで、Flutterのメリット・デメリットについて解説してきましたが、Flutterは特に以下のケースで効果を発揮します。
- 開発期間を短縮したい
- 開発コストを抑えたい
- シンプルなUI/UXのアプリを構築したい
一方、OS特有の高度な機能を利用する必要がある場合や、十分なFlutterエンジニアを確保できない場合は、慎重な検討が必要です。プロジェクトの特性に応じて、最適な技術選定を行いましょう。
もし「Flutterでのアプリ開発の外注を検討していて、一度相談したい」などお考えでしたら、アプリ開発会社の「株式会社ペンタゴン」にぜひご相談ください。私たちが貴社のアプリ開発をサポートし、成功へと導きます。
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