サービスデザインとは?顧客理解とサービス理解で「選ばれ続けるアプリ」を開発しよう
スマートフォンアプリをはじめ、私たちの周りには数えきれないほどのビジネスツールやエンタメツールが溢れています。毎日のように新たな技術や機能を備えた新作がリリースされる中で、ユーザーに選ばれるには利用に際しての顧客満足はもちろん、期待にこたえ続ける仕組みや体制作りも欠かせません。また、「このアプリが誰の何にとって価値があるのか」を正しく捉えることは、マネタイズポイントを設計するうえでの助けにもなるでしょう。
この記事では、そんなサービスづくりを実現するために昨今必要性が叫ばれている「サービスデザイン」という考え方の概要と、アプリにおいてなぜそれが重要なのかについて解説します。
サービスデザインとは
サービスデザインとは、継続的な顧客満足の実現と、そのための仕組みや体制づくりをデザインする手法です。2020年には経済産業省によってこのような定義がなされました。
顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出するための方法論
我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の在り⽅に関する調査研究報告書
この定義、アプリ制作においては、いったいどのような形で当てはめられるのでしょうか?
アプリ制作にサービスデザインがなぜ必要か
data.aiの発表によれば、2022年、モバイルアプリのダウンロード数が2550億にのぼった、という調査結果が発表されました。湯水のようにリリースされ、ダウンロードされるアプリの数々。莫大なコストをかけて認知を獲得しダウンロードまで漕ぎつけても、ユーザーが少しでもストレスを感じれば途端に利用頻度が下がり、毎日のように発表される新作にリプレイスされかねません。
機能や性能に差がつきづらい現在だからこそ、「まさに自分のために開発されたアプリだ!」とユーザーに感じてもらうことはもちろん、その満足が出来るかぎり継続するような体制づくりが必要なのです。
顧客体験にまつわる概念の整理
アプリ開発に関わる方であれば「UXデザイン」「CXデザイン」という言葉を聞いたことがあるでしょう。いずれも顧客体験にまつわるものとして認知されていると思いますが、これらは「サービスデザイン」と何が違うのでしょうか?サービスデザインの説明の前に、それぞれの違いを解説します。
UXデザインとは
UXデザインとは「ユーザーエクスペリエンス(User Experience)」のこと。アプリをはじめ、様々なサービスや商品を利用することで得られる体験をデザインすることです。”アプリの挙動が安定していて、ゲームを快適に楽しめた” ”コンテンツが豊富で選ぶのが楽しかった” など、サービスやアプリにおける単一の接点においていかに顧客を満足させるかが目的となります。
CXデザインとは
CXデザインとは「カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience)」のこと。こちらは、サービスや商品を購入してから使い終えるまでの一連の体験をデザインすることです。”ダウンロードからアカウント作成がストレスなく完了した” ”アフターフォローの対応が速かった” など、より広い時間軸を対象にしています。
UXデザイン、CXデザイン、サービスデザインの違い
「UXデザイン」「CXデザイン」の定義をおさらいしたところで、最後にサービスデザインとの違いを明らかにしましょう。
前述の2つが顧客体験にフォーカスしているのに対し、サービスデザインはそのサービスや商品を開発/提供する側の仕組みや体制までをデザインの対象にしています。
つまり、UXデザイン<CXデザイン<サービスデザインの順に手掛けるべき対象が広くなっているわけです。お互いは密接に関係しており、アプリの機能やリリース時の環境によって
それぞれにおける最適な形を模索する必要があるといえるでしょう。
サービスデザイン思考の6原則
具体的な手法を説明する前に、サービスデザインの原則となるいくつかの考え方をご紹介します。”サービスデザインの6原則”と言われる以下の6要素は、サービスデザインのあらゆるフェーズで念頭に置くべきものと言われています。
ユーザー中心であること | ユーザーの視点がすべてのスタート地点であり、ユーザー体験を判断基準にすること |
共働的であること | よりよいユーザー体験実現のために、様々な役割を持つ人々と関与しつくりあげられていること |
反復的であること | 完成度を上げるために検討・試作・実験・改善のアプローチを反復していること |
連続的であること | お互いに関連する様々な事項が連動し、統合されていること |
リアルであること | 事実を収集し、事実を裏付けとしたアイディアを形にすること。形のないものは物理的もしくはデジタルとしての実体として具現化されていること |
包括的な視点であること | すべてのステークホルダーのニーズを持続的に叶えるものであること |
サービスデザインのステップとサービス理解
原則となる思考を理解した上で、いよいよサービスデザインのステップを学んでいきましょう。いくつかの手法が存在しますが、今回は代表的な2つをご紹介します。
ダブルダイヤモンド
以下の図はダブルダイヤモンドモデルと言われる、サービスデザインのプロセスを視覚化したものです。
こちらを見ると基本的に「拡散と収束」を繰り返すことがわかります。企画段階でブレインストーミングを行う際などに、この「拡散と収束」を体験した方も多いと思います。
大切なのは目の前の課題や手法に飛びつかずにあらゆる可能性を洗い出すことと、その中から最適なものを見つけ出すことです。
例えばアプリ開発においてクライアントから提示された課題があったとして、それが本当に目の前の問題を解決するために打ちぬくべきポイントなのか?は検討しなければいけません。課題設定が正しくないとその後に検討する手法もまた見当違いのモノになってしまうリスクがあります。
同様に手法についても、目の前の条件や過去のパターンから自動的に導き出すのではなく、まずは制約なく最適な解決策の候補を洗い出し実現に向けてのプロセスを整えていく必要があります。
リサーチ/アイディエーション/プロトタイピング/実装
次にもう少し実践的な「リサーチ」「アイディエーション」「プロトタイピング」「実装」の4つの設計プロセスをご紹介します。
リサーチ
現状を把握するための調査を行う工程です。ユーザーの行動やその結果を収集し、背景にあるニーズや潜在的なシーズを分析します。ユーザー観察やインタビューなど調査にはいくつかの選択肢がありますが、大切なのは徹底的に事実にこだわることであり、憶測や思い込みを排除することです。
アイディエーション
リサーチによって集めた情報をもとに、問題解決やアプリに実装する機能のアイディアを出し合います。ダブルダイヤモンドで解説した通り、まずは質より量を重視することを意識しましょう。
プロトタイピング
アイディエーションによって採用するアイディアが確定したら、それを形にしていきます。できるだけ早いタイミング・小規模で行うほうが将来的なリスクを減らせるでしょう。ここで出た結果をもとにさらに改良を重ねていきます。仮に実現可能性が低い結果が出た場合は、もう一度プロセスを最初から繰り返す場合もあります。
また、アプリなどのサービスそのものだけでなく、それを実現する仕組みや体制についても持続的なものとなりうるかを検討する必要があります。
実装
テストが終わればいよいよ実際の開発・実装に移ります。アプリそのものはもちろん、マネジメント体制を含めて検討し、構築していきましょう。実装後はこまめなフィードバックによってアプリ自体やその供給体制について継続的に改良を繰り返していきます。
サービスデザインの手法
サービスデザインの一般的なプロセスを理解したあとは、各フェーズで利用される手法を説明します。目的や課題に応じて適切な手法を選択するわけですが、決まった手法をなぞることが重要ではないため、柔軟に手法をアレンジしても問題ありません。
ペルソナ
ターゲットとなる架空の人格や人物を設定し、その人物を目標にアプリ開発を行うこと(もしくは対象となる人物像)。リサーチによって得られた事実をもとに、年齢、住所、職業、価値観やライフスタイルなどを細やかに設定します。価値観や意思決定のパターンなどは、何にならお金を払っても良いと思う人物かを見極める際に助けとなるでしょう。人格に名前をつけることで、プロジェクトメンバー一同にターゲットに対する親近感を持たせるケースが多いです。
カスタマージャーニーマップ
ユーザー体験の最初から最後までを、旅の行程のように時間軸に合わせて可視化する手法です。アプリの認知からはじまる行動や感情の変化を1枚にまとめるため、一覧性に優れています。ユーザー体験のあらゆるポイントについて、関係者間の認識を共通化させることが可能です。
市場把握
特定のアプリやサービスを取り巻く業界や社会環境などを洗い出して視覚化したものです。ターゲットがどのような環境下で自分たちのサービスを認知し利用するかを把握するために有用です。
よほど革新的な技術や性能をもったものでない限り、似たようなアプリが現在、そして近い将来リリースされる可能性は高いでしょう。だからこそ市場の外部要因や社会の潮流、競合となりうる存在は何か、それが出現した時に自分たちはどのように対応するべきかを事前に検討していく必要があります。
市場や競合を把握するための思考フレームは確立されているので、しっかりと使いこなせるようになっておくことが必要です。
サービスブループリント
アプリやサービスがユーザーに提供されるプロセスを時間軸に沿って視覚化したものです。前述したカスタマージャーニーマップと近い役割ですが、カスタマージャーニーマップがサービスをユーザー視点からのみ視覚化しているのに対し、サービスブループリントはサービスを提供する仕組み側も含めて形にすることが特徴です。これによりユーザー体験に影響する重要な要因を関係者が理解し、改善方法を計画することができます。
ユーザーシナリオ
ユーザー体験の始めから終わりまでを、ペルソナがどのような行動や感情をもって利用するのかを予測したシナリオのことです。まだ見ぬユーザーがアプリを利用し、目的を達成するときに何を必要としているのかを予測することで改善点の抽出や検証方法を設計するときに役立ちます。
モックアップ
「模型」を意味するモックアップとは、機能実装前の試作品のことをさします。アプリの場合、完成後のデザインイメージを検証するためのものなのでアプリとしての機能は必要ありません。なるべく早い段階で作成することでプロジェクト後期での手戻りを防ぐことができます。
ユーザービリティテスト
被験者に実際のUIやプロトタイプを操作してもらい、使いやすさをテストするために行います。ユーザビリティをより洗練されたものとするために実施されます。
まとめ
サービスデザインとは圧倒的な顧客理解、サービス理解を通してアプリ開発に必要な「市場・マネタイズ・提供価値」を定義する助けとなるものです。この考え方をマスターすることで、自分たちの提供するアプリやサービスがユーザーやクライアントにとってどんな価値があるものかを正しく把握することができるようになります。