アプリ開発ではユーザーストーリーに注目!書き方や作り方も解説
ユーザーストーリーは利用者の視点からアプリの機能を見直し、開発すべき機能の優先順位などを見直す手法です。作業しなければならない膨大なタスクを整理するときに役立ちます。一文で表すこともできますが、ユーザーストーリーマッピングでは時系列の流れで整理します。ユーザーストーリーのポイント、書き方や作り方を解説します。
ユーザーストーリーとは?
アプリ開発では追加すべき機能が膨大になって混乱する課題があります。このとき、ユーザーの行動や感情に注目して、時間軸に沿った流れから機能を整理すると、プロダクトのめざす方向性が明確になります。これがユーザーストーリーと呼ばれるフレームワークです。
ユーザーストーリーでは、まずユーザー像を明確にした上で「誰が」「何を」「どのようにしたい」といった簡潔な文章で全体像をつかみます。また、ユーザーの行動の流れを時間軸でマッピングして、その展開に沿ってタスクや機能を配置していきます。
アプリ開発におけるユーザーストーリーのメリット
ユーザーストーリーを描くことによって、ユーザーを軸にして開発をとらえ直し、開発の方向性のブレをなくし、プロジェクトのメンバー全体の認識を共有できます。また、ユーザーストーリーに合わない機能を削ぎ落とすことにより、機能のスリム化にも役立ちます。
ユーザー視点を軸に開発の方向性を定める
あらゆるプロダクトやサービスが顧客志向、ユーザー志向で作られています。アプリ開発の企画・設計やデザインにおいても、ユーザーの視点は大切です。ユーザーに満足してもらい、使い続けてもらうことがアプリ収益の基盤になります。
特にアジャイル開発では体の工程を小単位に分け、時間を区切って目標を立てるスプリントにより実装とテストを繰り返しながら進めていきます。しかし、スプリントで部分的な目標と時間だけ追っていると、全体がどこへ向かうのか方向性を見失うことがあります。方向性を見失うと、発注もとのクライアント側と受託の開発側の齟齬が生まれます。このときユーザー重視の原点に戻ることで、開発の方向性の軌道修正ができます。
プロジェクトに関わる全員の認識を共有できる
アプリ開発のプロジェクトは外部の開発会社とともに、クライアント先の営業やマーケティング、サポートチーム、法務、財務といった多様な部署が関わることがあります。このように部門や担当している業務が異なると、それぞれの視点からアプリに求めている完成形のイメージに少しずつ違いが生まれます。ユーザーストーリーは、プロジェクト全体をユーザー視点からとらえ直して認識を共有するときに役立ちます。
開発すべき機能やデザインのスリム化
アプリ開発ではプロダクトマネージャーの指示で進行しますが、今後やるべき作業や課題を盛り込みすぎると工程管理に支障が生じます。すべてに対応するには、開発工程や予算がいくらあっても足りません。「その機能は、ユーザーにとって本当に必要か?」という視点からとらえ直すことにより、開発すべき機能のスリム化が可能です。
ユーザーストーリーの作成は、アプリの制作を検討する上で非常に重要なステップです。次の記事では、アプリの種類や開発手法について詳しく解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。
ユーザーストーリー作成で注意するポイント
ユーザーストーリーは要件定義ではありません。技術が分からなくても理解できる一般的な言葉で作成することが重要です。
システム要件の定義ではないこと
これから新しいアプリやソフトウェア、システムの開発を始める段階で、要件定義は非常に重要です。要件定義をしっかり記述することで、クライアント側と開発側の共通認識が生まれます。プロジェクトに関わるメンバーの認識を合わせる意味ではユーザーストーリーも同じですが、ユーザーストーリーは利用者の視点からアプリの機能をとらえることにあります。機能や仕様中心ではない点から要件定義とは異なります。
一般的な言葉で書くこと
開発者としては技術的な仕様や要件から発想しがちです。しかし、ユーザーストーリーのポイントは、顧客やユーザーに沿った言葉で書くことです。BtoCのアプリであれば消費者の言葉、BtoBのアプリであれば会社の従業員や経営者の言葉で表現します。技術的な視点から考えると、機能に対してユーザーの行動を紐づけてしまう傾向にありますが、実際にはユーザーの行動のために複数の機能が必要というケースがあるからです。
ユーザーが大切にする価値観は、時代や社会の背景(コンテクスト)によって異なります。アプリに処理スピードを求める場合もあれば、ゆったりと時間をかけて使っていたい場合もあります。このようなユーザーの要望を発見するためには、技術や機能から離れて、まずユーザーの立場に立って考えて日常的な言葉で考えることが大切です。
ユーザーストーリーを描くとき必要な3+1の視点
最もシンプルなユーザーストーリーは「誰が+何のために+どうしたい」という一文にまとめてしまう方法です。さらに効果や価値観などのゴールを描くとよいでしょう。それぞれ解説します。
ユーザーは誰か(ペルソナ)
マーケティング用語やユーザー中心設計の言葉でいえば「ペルソナ(persona)」です。ペルソナはラテン語で「仮面」の意味であり、ユーザーの個別の人物像を具体的に描きます。しかし、この部分に時間を割きすぎる必要はありません。ニーズなどの仮説を導くことが目的であり、詳細に描きすぎると逆にニーズや行動が見えにくくなります。
営業支援アプリの例: SaaS企業の新規事業開拓営業部に勤め、5人の部下を管理するサクライ課長(35歳)。
何のためにしたいのか(ニーズ、目的、理由)
ユーザーがなぜそのアプリや機能を求めているのかニーズ、目的、理由の観点から記述します。抽象的な目的と具体的な目的が考えられますが、具体的に落とし込める場合は具体化するとよいでしょう。
営業支援アプリの例:新規開拓営業先のうち確度の高い見込み客を発見、成約率の10パーセント向上、売上高1億円を達成する。
何をしたいのか(行動)
ユーザーは何を達成しようとしているか、そのアプリの機能はどのようにユーザーの目的達成に役立つのかを記述します。
営業支援アプリの例:5人の営業部員から上がってきた日次報告を見て、その場で次の行動を指示、営業部員全体に状況と進捗を共有する。
どのような効果が得られるのか(ゴール)
一般的なユーザーストーリーは「誰が」「何のために」「何をしたいのか」という3つを抑えます。ただし、ユーザーの価値観のゴールも見極めておくとよいでしょう。やや目的と混同しやすいのですが、目的やニーズが短期的であるのに対して、長期的な視野からゴールを考えます。
営業支援アプリの例:属人的になりがちな営業ノウハウを共有して自社オリジナルの王道的な顧客獲得メソッドを確立、人間力を重視する経営理念に沿って、新人を含めた即戦力育成を行う。
個別にストーリーを記述しましたが、一文として簡潔にまとめると「新規開拓営業部の課長が(誰が)、成約率向上と売上達成のために(何のために)、日報に対する的確な指示と情報共有を行い(どうする)、チーム全体の営業力を高める(ゴール)」というストーリーになります。
ユーザーストーリーの2つのフレームワーク
ユーザーストーリーを作成するときに効果的なフレームワークに「3C」と「INVEST」があります。簡単に説明します。
3C
ユーザーストーリーの3Cとは、Card (カード)、Conversation (対話)、Confirmation (確認)です 。まずアイデア出しの段階ではカードもしくは付箋を使います。カードに書き出すことによって可視化することがポイントです。続いてプロジェクトのメンバーが対話によって検討できる雰囲気を作ります。最後に客観的な視点から確認して、ユーザーストーリーの共通認識を作ります。
INVEST
INVESTとは、Independent (独立している)、Negotiable (交渉可能である)、Valuable (価値がある)、Estimable (見積り可能である)、Small (小さい)、Testable (テスト可能である)といった英語の頭文字を取っています。
小単位に区切った開発の実装とテストを反復して進めるアジャイル開発の場合、ユーザーストーリーは独立して、1回の反復で完了させるために小さく、完了させたことをテストできる必要があります。また、それぞれのユーザーストーリーが価値を持ち、見積もり可能であることが求められます。加えて描いたストーリーが完全である必要はなく、むしろ交渉によって変えることができる融通性を備えていることが大切です。
ユーザーストーリーマッピングとは
ユーザーストーリーを時系列で整理して可視化したものが「ユーザーストーリーマッピング」です。ユーザーストーリーの3Cでカードや付箋を使うことをあげましたが、発想技術のKJ法に似ています。アイデアの発想技術には、否定せずに思いつく限りアイデアを出す発散思考の段階と、大量のアイデアを検討して絞り込む収束思考の段階があります。
発散思考の段階:あらゆる要素を洗い出す
ユーザーの基本的なペルソナや目的などを定義した後、そのユーザーがどのような行動を起こしたいのか、そのときに生まれる感情は何かをあらゆる観点から洗い出します。続いてユーザーの行動を時間軸で並べて、アプリに必要な機能を洗い出していきます。この作業では、可能な限りアイデアを出すようにするとよいでしょう。
収束思考の段階:優先順位を決め、具体化する
時間軸に対応するタスクや機能を整理し、左から右へヨコ軸の行動に対してタテに並んだタスクや機能を検討して、機能のうち重要なものや優先順位の高いものを上に配置します。このように時間軸の配置を空間的に見渡すことで、全体像を把握します。その後、バックログに反映したり概算費用を算出したり、具体的な設計にまで落とし込みます。
ユーザーストーリーマッピングの作り方
ユーザーストーリーマッピングの作り方を5つのステップで解説します。
STEP1:会議室の設定と付箋などツールの準備
準備段階として場所を決め、ツールを揃えます。プロジェクトのメンバーが落ち着いて対話できる会議室を使うとよいでしょう。付箋に書き込んでホワイトボードに貼っていくと効果的です。付箋は記入する内容に合わせて3色~5色ほどの色分けができるものを使うことをおすすめします。PC上でストーリーマッピングが可能なソフトウェアもあります。
STEP2:行動・感情の書き込みと時系列に沿った配置
ユーザーの行動や感情を付箋に書き込みます。書き込んだ項目は時系列で左から右へ並べていきます。このとき書き込んだ内容の粒度が大きい場合は下位のカテゴリを設定します。たとえば「営業日報の共有」であれば、「ファーストコンタクト」「再訪問」といった分類が必要になるかもしれません。あまりにも細かくなりすぎないように注意が必要です。
STEP3:機能の書き込みと時系列に沿った配置
続いてユーザーの行動や感情の流れに合わせて、必要な機能をピックアップしていきます。このとき機能以外に実現したい目的やゴールとなる価値観が出てきた場合は、色の違う付箋に記述すると分かりやすくなります。
STEP4:優先順位の検討、ストーリーポイントの検討
ここまでの段階で左から右へのユーザーの行動と感情の流れに対して、その下に必要な機能が配置できました。次に、タテに並んだ機能のうち、優先順位の高いものを上に並べ替えます。プロジェクトに関わる立場によって認識が違うことから、対話により見解の違いを明らかにします。
このときストーリーポイントを考慮します。ストーリーポイントは実装に必要な労力を算出するための最小単位です。算出方法としては、人数分だけ用意した札に書かれた点数をいっせいにあげる「ストーリーポーカー」という方法もあります。
STEP5:バックログなどの整理
ユーザーストーリーマッピングが完成したから終了というわけではありません。最終的にアプリの開発のバックログなどに落とし込みます。付箋などをホワイトボードに貼って検討したときは、撮影など記録して情報共有できるようにするとよいでしょう。リリース前の企画・設計段階はもちろん、アプリのアップデートなど運用段階においてもユーザーストーリーに戻って再考できるようにします。
ユーザーストーリー作成で生じがちな課題
ユーザーストーリーは、アプリの企画・設計、デザインの段階で有効な手法ですが、ユーザー像が明確に描かれていなかったり、戦略的な概念が先行したりすると、漠然としたストーリーになりがちです。逆にあまりにも細かくストーリーを描きすぎた場合は、やるべきことが混乱します。プロジェクトリーダーやミーティングのファシリテーターがコントロールする必要があります。
まとめ
ユーザーストーリーを軸としてアプリの機能全体を見直すことで、着手すべきタスクの優先順位が明確になります。簡潔な一文でまとめてしまうストーリー作成から始め、視覚的に分かりやすいユーザーストーリーマッピングで理解を深めていくとよいでしょう。ポイントはユーザー志向の原点に立ち戻ることです。作業負荷が膨れ上がる課題を解決する方法として、ユーザーストーリーは効果があります。