UXリサーチとは?アプリを改善するためのユーザー調査、専門家に委託する方法も解説
UXリサーチは、ユーザーに対する調査を通じてプロダクトの使い勝手など定性的な情報を収集する手法です。仮説の検証のほか、ユーザーの潜在的なニーズを探索するために行います。UXリサーチの目的、ユーザーおよび専門家にリサーチする基本的な手法、手順の流れなどを解説します。
UXリサーチとは?
アプリに関する定性的な情報をユーザーから収集して、ユーザビリティの向上などに役立てる調査手法をUXリサーチと呼びます。プロダクト開発のデザインと運用段階において、UXの観点から検討するときに役立つ手法です。まずUXデザインとの関係性、一般的なリサーチとの違いからUXリサーチの特徴をまとめます。
UXリサーチとUXデザイン
アプリをはじめとしたプロダクト開発では、ユーザーの体験に基づいてインターフェースや機能を設計する「UXデザイン」が重視されています。UXリサーチは、UXデザインと密接に関わります。ユーザーがどのような機能を求め、何を快適に感じるかについて生の声を収集することにより洞察を得て、プロダクトにフィードバックさせます。
UXリサーチから得た結果は、ワイヤーフレーム、カンプやプロトタイプを作るときの貴重な情報です。ユーザーに基づいた情報からアプリを設計することにより、品質の高いアプリの開発が可能になります。
一般的なリサーチとUXリサーチの違い
一般的にリサーチといえば、インターネットリサーチのアンケート調査を思い浮かべるかもしれません。アンケート調査には、次の3つの回答形式があります。
・シングルアンサー(SA)
・マルチアンサー(MA)
・自由回答(FA)
シングルアンサーは選択肢からひとつ選ぶ形式で、ラジオボタンが使われます。マルチアンサー選択肢から複数の回答を選ぶことができ、チェックボックスを配置した形式です。自由回答はテキストエリアに記入し、500文字以内など文字数を制限することがあります。
調査後に集計して統計処理ができる定量的な情報は、シングルアンサーとマルチアンサーです。主としてシングルアンサーは円グラフ、マルチアンサーは棒グラフで可視化します。一方、自由回答から得られるのは定性的な情報です。テキストマイニングを使って分析することもあります。
UXリサーチでは、主として定性的な情報に注目します。インターネットリサーチでは自由回答のような部分になりますが、より深い洞察を得るためにユーザーにインタビューを行います。
一般的なリサーチの基礎知識として、定量的な情報収集と定性的な情報収集があることを理解しておくと、UXリサーチの本質が分かりやすいのではないでしょうか。
UXリサーチの目的
アプリのプロトタイプを作成するとき、問題点の早期発見や完成度を高める手法としてUXリサーチは有効です。UXリサーチの目的には検証と探索があります。
検証のためのUXリサーチ
検証のためのUXリサーチでは、ある機能の採用や改善に対して仮説を立て、その仮説が正しいかどうか調査によって検証します。ある程度の正解を用意し、その答えが正しいかどうか判断するためのリサーチです。
検証のためのUXリサーチの手法としては、ユーザビリティテストなどのテスト方法があります。課題の解決、ユーザーの行動や選択、感情などに期待通りの影響が得られるかどうかをテストします。
探索のためのUXリサーチ
探索のためのリサーチでは、あらかじめ正解を設定せずに新たな洞察を得るためにリサーチを行います。さまざまなユーザーの生の声を収集できることから効果的です。ただし、目新しい発見や洞察が得られないリスクもあります。
探索のためのUXリサーチの手法としては、ユーザーインタビューが代表的です。ニーズなどを深掘りしていくデプスインタビューもよく使われます。UXに直接的に影響を与える要因のほか、間接的に影響を及ぼす要因、デザインを含めてアプリの開発に活用できるアイデアやヒントを探っていきます。
UXリサーチの基本的な手法
UXリサーチの基本的な方法を7つ紹介します。
デスクリサーチ
デスクリサーチは、あらゆる調査における基本的な手法です。インターネット上のさまざまな資料、公開されている資料から情報を収集します。具体的なUXリサーチに着手する前に、おおまかな仮説を立てたり、インタビューを設計したりするときに役立ちます。手間をかけずに、すぐに実施できる特長があります。ニュースの記事、座談会、導入事例なども基本的な情報源として目を通すとよいでしょう。
エスノグラフィックリサーチ
現場に赴いて情報を収集する手法です。民俗学や文化人類学の学者が用いるフィールドワークとして知られています。マーケターが使う手法でもあります。
メーカーや広告代理店のマーケターは、コンビニエンスストアや店舗、エンターテイメント施設などを実際に訪問して歩き回り、時代の空気からトレンドを嗅ぎ取っています。エスノグラフィックリサーチを行うことで、潜在的なニーズを発見し、プロダクトの価値の再定義が可能になります。
エスノグラフィックリサーチで重要なことは「観察」です。アプリ開発の場合は、アプリを使っている場所、たとえば通勤電車の中、路上、公園や待ち合わせ場所などでユーザーを観察します。若者向け、主婦向け、学生向けなどターゲットユーザーが決まっている場合には、対象となる人々がたくさん集まる場所に出向いて観察を行います。
インターネットリサーチ
インターネット経由でアンケートサイトにアクセスを促して調査を行う方法です。年齢、性別、所得などの属性からターゲットを絞り込んで調査することが可能です。外部のリサーチ会社に委託すると効果的です。しかし、保有するパネルによっては、回答に偏りが生じる場合があるので注意しなければなりません。
UXのリサーチでは定性的な情報に着目しますが、インターネットリサーチは定量的な調査において効果があります。多くのインターネットリサーチのサービスでは、リアルタイムで集計して可視化できるダッシュボードを備えています。
ユーザーインタビュー
ユーザーにインタビューを行い、対話から洞察を導き出します。1対1によるユーザーインタビュー、少人数のグループによるグループインタビューが代表的な手法です。ひとりのユーザーに対して徹底的に質問を深めていく方法をデプスインタビューと呼びます。深層心理や潜在的なニーズを探る効果的なやり方です。
内容から分類すると、あらかじめ全部の質問を用意する構造化インタビュー、用意していた質問にユーザーの回答から質問を追加する半構造化インタビュー、まったく質問を用意せずに対話する非構造化インタビューがあります。
ユーザビリティ調査
ユーザーにアプリの使い勝手を評価してもらう方法です。調査対象にタスク(課題)を与えて、取り組んでもらいながら使い勝手や課題を明らかにします。自社アプリ以外に競合アプリと比較することも可能です。ユーザーの観察が主体であり、観察からアプリの課題やユーザー心理に関する洞察を引き出します。したがって、誘導尋問をしないように注意が必要です。
ストーリーボード(コンセプトテスト)
ユーザーの体験を絵コンテのようなイラストや画像で視覚化したものをストーリーボードといいます。体験の流れにしたがって、吹き出しのセリフやナレーションを追加してマンガのように仕上げることもあります。ストーリーボードを見せて、コンセプトに価値を感じるかどうか、問題の解決になっているかどうかなどユーザーの意見や反応を収集します。
ユーザーに対するテストの効果はもちろん、ストーリー仕立てにすることによりユーザーの理解が深まるため、プロジェクトのスタッフ側のメリットもあります。
専門家によるUXリサーチ
UXリサーチでは、UXの専門家にヒアリングを行う手法もあります。アプリに精通した専門化が実際に使って、プロフェッショナルの知見から評価します。一部のコンサルティング会社では、評価自体をプレスリリースとして公表しています。専門家による「お墨付き」をもらえることは、アプリの広報宣伝にも効果があります。
エキスパートインタビュー
エキスパートインタビューは、アプリに詳しい専門家や有識者による評価です。特定の業界や商品、海外の情報に詳しい専門に対するインタビューを行います。たとえば製造業界に特化したアプリ、海外向けのアプリなどを企画する際には、なかなかユーザーインタビューが難しいものです。それぞれのマーケットの専門家にインタビューすることにより、深い知見が得られます。
注意事項として、専門家へのインタビューは時間を超過すると追加料金を請求されることがあります。事前にインタビュー項目などをしっかり準備しておくことがポイントです。
認知的ウォークスルー
ユーザビリティ調査のひとつともいえますが、専門家がユーザーになりきって実際にアプリを使ってテストします。具体的なユーザーを想定して、タスクやシナリオの流れに沿って操作して評価する方法です。ユーザーのサンプル数を確保することが困難といった場合には有効です。ただし、結果は専門家個人のスキルに依存し、想定外の課題を発見することが難しいデメリットもあります。。
ヒューリスティック評価
ヒューリスティック(heuristic)は心理学用語で「発見的手法」を指します。必ずしも正しいとはいえないけれど、経験則による答えを意味します。ヒューリスティック評価では、UI/UXの専門家が用意されたガイドラインにしたがって使いやすさや問題点を評価します。代表的なガイドラインとして、ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン氏が提唱した10原則があります。
ヒューリスティック調査は、ユーザー調査と比較して多くの改善点を洗い出せる点で優れている一方、一般的なユーザーの使い勝手を把握できないデメリットがあります。
UXリサーチにおける定量調査との組み合わせ
UXリサーチは定性的な分析を中心としていますが、定量的な分析と組み合わせることでより多角的な分析が可能になります。定性的な分析は主観が入りがちであり、指標になりにくいという課題がありますが、定量的な分析を加えることでユーザビリティ改善の到達度を測定することが可能になります。
たとえば、A/BテストはビジュアルデザインやUIに記された文章の効果を定量的に測定する方法のひとつです。2つのデザインパターンをランダムに表示させて、それぞれどちらが効果的かテストします。インタビューなどから得られた洞察を具体的な2つのデザインに落とし込み、ユーザーに評価してもらった上でデザインを採択します。
アクセスログなどを解析したデータも活用すべきです。リサーチの手法やサービスには特性があるため、複数の手法を組み合わせて検証することによって仮説の検証をより確かなものにします。
UXリサーチの手順
UXリサーチの手順は、通常のリサーチと同様に調査設計、実査、分析と考察の3つの段階の手順で考えると分かりやすいでしょう。調査手法によって細部は異なりますが、全体的な流れとポイントを解説します。
調査設計:目的を定めてリサーチの計画を立てる
まず検証型と探索型の2つ観点から、実施するUXリサーチの目的を定めます。既にアプリの企画があり、ビジュアルデザインの見通しが立っている場合は、仮説を立案して検証的な手法が適しています。さらにA/Bテストのように定量的なリサーチを活用すべきです。
一方で、これからアプリを作るためにアイデアのヒントがほしいといった場合は、探索型のUXのリサーチを行うとよいでしょう。この場合もインターネットなどを使って関連情報を収集した上で、調査の目的や方向性を定めます。現状の課題を踏まえて、まず目的をしっかり把握することがポイントです。
また、いつUXリサーチをするのかというタイミングも重要です。アプリを使ってもらって評価を求める場合は、プロトタイプの完成段階あるいはリリース後が調査のタイミングになります。リリース直前に調査を行うと、問題がみつかった場合に修正が困難になるからです。
調査の目的を明確にした上で、調査方法を具体化します。社外に委託する場合は、予算やスケジュールとともに、委託する企業の実績なども確認しておきます。
実査:外部委託も検討する
インターネットリサーチであれば比較的安価に進められる場合がありますが、デプスインタビューや専門家に対するインタビューは費用や時間もかかります。ユーザーから潜在意識を引き出すためのテクニックが必要になるため、UXリサーチを専門としている企業に実査を依頼したほうが効率的であり、成果が期待できます。
分析・考察:仮説を検証して洞察を得る
検証的UXリサーチの場合は、仮説の正しさを検証し、仮説とは異なる結果であれば何が要因だったのかを考察してデザインや機能の改善に役立てます。定性的な分析に着目するUXリサーチで成果を出すには、担当者の感性も重要です。探索型のUXリサーチを繰り返し行うことは、UXデザイナーの感性を磨く機会にもなります。その意味では、すべてのUXリサーチを外注化するのではなく、社内に知見を残したいリサーチに関しては内製化も検討すべきです。
まとめ
本格的にUXリサーチを実施しようとすると費用や時間がかかりますが、最適化した方法で試験的に取り入れるだけでもユーザビリティに対する発見があります。外部に委託、内製化などの方法を検討しつつ、よりよいUI/UXの実現のためにUXリサーチを行うことをおすすめします。