アプリのリテンションレート(継続率)の改善に必要なこととは?
みなさんは「リテンション」「リテンションレート」という言葉を聞いたことはありますか。
最近ではサブスクリプションサービスが流行していることもあり、耳にしたことがある方もいるかもしれません。リテンションレートは事業の収益性やサービスの品質を考えるうえで非常に大切な指標の一つです。今回はそんなリテンションレートの概要から、注意すべきポイントなどを詳しくご紹介します。
リテンションレートとは?
リテンションレートはサービスの継続率・定着率を数値化したものです。まずはリテンションレートに関する詳細な内容をご紹介する前に、「リテンション」の概要について、改めておさらいします。
そもそもリテンションは「維持」「保持」といった意味を持つ言葉で、主にビジネスにおいてはマーケティング・人事の分野でよく使われています。まず、人事の分野においては「人材の流出を防止するための施策」を指します。つまり、優秀な人材を社内に引き止めたり、離職率の低下を防いだりする施策全般を指すものです。
対してマーケティングの分野では、既存顧客を維持するための施策や維持することそのものを指して使われます。特に昨今は市場競争の激化や異業種参入が多くの業界で起こっていることから、既存顧客に対する重要性が高まっています。新規ユーザーの開拓や獲得はどうしてもコストが高くなりがちなため、既存顧客の流出を増やすことなく、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を安定的に伸ばして最大化していくことが、より効率的な手法として注目を集めているのです。
さらに、近年はサブスクリプション型のサービスが台頭したことにより、ビジネスモデルが変革しました。これらサブスクリプション型のビジネスモデルでは、顧客の継続率が高まらなければ収益モデルが成り立ちません。こうした背景から、顧客や利用ユーザーの定着率・維持率が重要な要素の一つになっているのです。
さて、ここまでリテンションについて解説しましたが、「リテンションレート」はそのリテンションを比率や歩合の形で算出したものです。アプリやWebサービスなど、デジタルマーケティングではよく使われている指標になります。
例えば、とあるWebアプリの利用者AとBというユーザーがいたとします。ユーザーAは開始から2年以上の継続利用がある一方、ユーザーBは3ヶ月でアプリの利用を停止しています。この場合、ユーザーAの方が高いリテンションレートを保持していると言えます。また、同時期にリリースされたWebアプリサービスがあったとして、一方はユーザーの定着率が9割でユーザー規模は1,000人、もう一方のアプリは定着率が4割でユーザー規模が3,000人いたとします。この場合、ユーザーの規模数では後者のアプリの方が勝っているものの、リテンションレートでは前者のアプリの方が高くなります。
このリテンションレートが重要視されるようになった背景として、先にご紹介したようなビジネスを取り巻く環境・ビジネスモデルの変化などがありますが、同時に多くのユーザーの継続率が低いことも判明しています。ある調査によると、サービスを利用開始したユーザーの90%が3ヶ月で利用を止めていることが分かったのです。今後もますます新なサービスが増え続けることが想定されるため、自社のサービスを安定的に伸ばしていくためには、顧客に選ばれ続ける施策を行うほかないと言えるでしょう。
リテンションレートの計算式
さて、ではここでリテンションレートの計算式について確認してみましょう。リテンションレートは下記のような式で算出することができます。
継続顧客数÷新規顧客数=リテンションレート
例えば、4月1日時点で新規ユーザーが2,000人増加し、その3ヶ月後の7月1日時点で1,000人のユーザーが継続利用していたとすると、この場合のリテンションレートは50%になります。
リテンションレートを測る必要性
リテンションレートを計測する必要性には色々な理由が考えられますが、大きくまとめると「効率的・継続的・安定的に売上を向上させられる」という点に集約されます。
先ほど、新規顧客の獲得にはコストがかかる旨に触れましたが、一説によると新規顧客の獲得には既存顧客の約6倍ものコストがかかるとされています。加えて、「パレートの法則」という学説にもとづくと、成果の総量の8割が、全体の2割の要素によって生み出されていると言われています。
これをWebアプリなどのビジネスに照らし合わせて考えると、売上の内の8割を2割のユーザーが担っているということになります。そして、この2割のユーザーは自社との結びつきが強く、自社に高い興味関心を持ったロイヤルカスタマーと考えるのが妥当です。つまり、より安価なコストで売上を最大化していくためには、リテンションレートに注意するほか無いのです。
その他に、事業の収益性を図ったり、利益計算をしたりするのに役立つという側面も持っています。
単純化して考えると、そもそも企業が利益を出すためには顧客を獲得する単価(CPA)よりも、顧客が創出する価値(LTV)が上回っている必要があります。そのため、リテンションを測定して「顧客がどれほどの期間にわたって利益を生み続けるのか」ということが分からなければ、収益の見立てをつけることすらできないのです。こうした理由から、リテンションレートを測定する必要があるのです。
リテンションレートが下がる要因
ここからはリテンションレートが下がる要因を、Webアプリの場合にフォーカスして確認していきましょう。ここでは主要なものを3つ挙げて、項目別にご紹介します。
UXが悪い
まずは、アプリのUXが悪いケースが考えられます。とはいえ、一口に「UXが悪い」といってもさまざまな可能性があります。例えば、単純に操作性が悪いことからユーザー体験を阻害してしまったり、サポート品質が低かったりすることまで色々でしょう。
提供するサービスによってもポイントは異なりますが、UXの良し悪しを測る一つの基準として「UXハニカム」というものがあります。このUXハニカムは情報アーキテクチャ論の先駆者であるピーター・モービル氏が2004年に提唱した概念で、下記6つの要素によってUXが構成されていると定義しています。
- Useful(役に立つ)
- Usable(使いやすい)
- Findable(探しやすい)
- Credible(信頼できる)
- Accessible(アクセスしやすい)
- Desirable(好ましい)
では、それぞれの要素について簡単にチェックしていきましょう。
Useful(役に立つ)
まずは、Usefulです。多くのユーザーが何かしらの目的や課題を持ってアプリをインストールし、利用します。例えば、電車の乗降者の際に時間を調べたり、ホテルや飲食店を予約したりする際に各種専用アプリをインストールします。そのため、「開発したアプリがユーザーの課題を解消できているか」「そもそもユーザーのニーズとズレていないか」といった点に留意することが大切です。この点がクリアできていなければ、ユーザーニーズを満たしていないアプリと言えるため、顧客体験を満たすことは不可能です。
Usable(使いやすい)
次に、Usableの観点です。顧客体験をより良いものにするためには、快適な操作性とノンストレスな動作環境が欠かせません。Webアプリで言えば画面設計、導線設計などが該当します。より具体的に説明すると、ボタンの位置やタップするエリアの大きさなどが挙げられます。また、近年は人によって扱うデバイスも異なるので、デバイス間で動作環境に差異が出ないような作りを心がけることも大切です。
Findable(探しやすい)
Findableの観点では、ユーザーが目的の情報を見つけやすく、必要な情報に辿りつきやすい設計などが該当します。例えアプリ内に良質なコンテンツを多数保有していたとしても、ユーザーの目に触れることがなければ意味はありません。知りたい情報に対する不満を抱えたままユーザーを放置していれば、離脱にもつながります。そのため、ユーザービリティテストやヒューリスティック分析、ナビゲーションの見直し、アプリ内検索機能の追加などを行いましょう。
Credible(信頼できる)
続いて、信頼性を表すCredibleの要素です。いくら操作性が良く、目的のトピックに辿りつけたとしても、信頼性のない虚偽の情報などであれば意味を成しません。コンテンツの信頼性は企業の信頼性と捉えられる可能性もあるので、正確かつ過不足のない内容に仕上げましょう。
Accessible(アクセスしやすい)
Accessibleも非常に重要で、昨今はより重要度が高まっている観点でもあります。Usableの要素とも多少被りますが、より多くのユーザーにアプリを利用してもらうためには、障害を抱えている方や高齢者の方、小さな子供などさまざまな人々が使いやすいものである必要があります。
例えば、視覚障害を持っている方向けに音声読み上げ機能を使えるようなアプリに仕上げる、視覚障害を持っている方向けにタップに応じて振動や効果音を付与するなど、工夫する点はいくつもあります。ユーザーフレンドリーなアプリは顧客体験を向上させますが、使用者を限定するようなアプリは顧客体験を損ないます。
Desirable(好ましい)
最後にDesirable、エモーショナルな観点です。ユーザーの興味関心を惹き、アクションを誘発させるためにはデザイン・ブランディング・コンテンツの雰囲気といった総合的なエモーショナルデザインが重要です。コンテンツが充実していて使い勝手が良くても、無味乾燥なアプリであればユーザーからは飽きられてしまうでしょう。ユーザーを惹きつけて離さないような一工夫が求められます。
ここまでご紹介してきた要素からUXは成り立っています。これら一つひとつの要素が満たせているかどうか、改めて確認してみると良いでしょう。
アプリの魅力が伝わっていない
リテンションレートが低下する原因として、アプリの魅力がユーザーに伝わっていない可能性も考えられます。先ほどご紹介したDesirableの要素などとも多少被りますが、アプリの魅力を伝えるためには包括的なエモーショナルデザインが必要です。また、同時にユーザーのニーズをきちんと把握したうえで開発が進んでいるか否かという点も非常に大切です。
ユーザーの声を吸い上げ、ニーズを確かめないままメリットを提示しても、アプリの魅力は伝わりません。ユーザーニーズに合致すると共に、ユーザーにとって分かりやすい形で魅力を伝える工夫も大切です。そのためには、アプリの活用によって実現することを可視化させたり、チュートリアルなどを設けて適切なオンボーディングを設計・実装したりすることも必要でしょう。
通知などでのアプローチが過剰
アプローチが過剰すぎるのも、ユーザーの離脱を招く大きな原因です。みなさんの中にはWebアプリの過剰なプッシュ通知や、アプリでなくとも過剰なメールマガジンに悩まされている方も少なくないでしょう。確かにプッシュ通知はユーザーを後押しする強力な機能ですが、それは適切なタイミングに、適切な内容を、適切な量配信することで初めて効果を発揮するものです。
過剰なアプローチはユーザーに忌避感を植え付けるどころか、場合によっては怒りの感情をもたらしてしまう可能性すらあります。そのため、ユーザーになるべく負荷をかけないよう留意する必要があるでしょう。配信する内容もユーザーに負担をかけないよう、簡潔明瞭で多すぎない量を意識してください。
リテンションレートを高めるためにできること
ここからはリテンションレートを高めるための方法についてご紹介します。
ユーザーに「成功」を与える
まず一つ目はユーザーに成功体験を与えることです。ユーザーはあくまで何らかの課題達成を目的にアプリを利用しています。先ほど紹介したような乗り換えアプリ・予約アプリのようなものから、楽しい時間を過ごせるゲームアプリまで目的は多種多様です。そうした課題解消までのステップを、ユーザーがなるべく負担なく進んでいけるよう、オンボーディングやチュートリアルを設定することが大切です。
例えば、アプリ内でユーザーがアクションを達成する度にポイントを付与する工夫などが挙げられます。特にゲームアプリにおいては、連続ログインによるボーナスや、ゲーム開始時のチュートリアル・各ステージクリア後の報酬アイテムなど、ユーザーが成功体験を感じられる箇所が随所に散りばめられています。このような仕組みを上手く活用すれば、リテンションレートの低下を防ぐだけでなく、アクティブユーザー数やスマホ占有率の増加といった効果も期待できます。ライフライン系のアプリでも、こうした報酬体系やカスタマーサクセスの観点を盛り込んだチュートリアルなどを設置しておくと良いでしょう。
ちなみに、これらチュートリアルの存在そのものがユーザー体験を阻害してしまう可能性もあるので、スキップ可能なように制作するなど、選択肢を残しておくことも必要です。
ユーザーとより良い関係を築く
リテンションレートを高めるためには、なんと言っても顧客との信頼関係を築くことが大切です。そのため、日常的に配信するアプローチの量や顧客に応じた個別最適化、サポートの手厚さなど、顧客とのタッチポイントになり得るすべての箇所で顧客との信頼関係を積み上げていく必要があります。一つひとつのアプローチを行う際には、ユーザーの目線に立ったうえで、顧客の信頼を積み上げられるものになっているかどうかを考えるように心がけましょう。
まとめ
今回はリテンションレートをテーマに解説しました。リテンションレートを考えることは、サービスを安定的に維持するだけでなく、売上を向上させたり、利益の見立てをつけたりするためにも重要なことがご理解いただけたでしょうか。今後ますますのデジタル化・サービスの多様化が進む中、顧客を保持し続ける重要性は今以上に高まるでしょう。ぜひ、今回ご紹介した内容を参考に、自社サービスの見直しを図ってみてはいかがでしょうか?