アプリ開発のデータ分析、活用のポイントと基本的な7つの指標を解説
アプリ開発では、さまざまなデータ分析に基づいて品質を改善していくことが重要です。定量的な指標を定めると、プロジェクトの目標達成度を把握しやすくなります。分析するデータや手法にはさまざまなものがありますが、この記事では、データ分析の基本的な考え方、開発の3つの段階におけるデータ分析の概要、そして基本的な7つの指標を解説します。
アプリ開発におけるデータ分析とは
アプリをはじめとしたデジタルツールの最大の特長は、利用状況などのデータを収集して分析を行い、プロダクトや集客施策の改善に役立てられることです。
たとえばリリース前には競合他社のアプリのパフォーマンスデータがベンチマークになります。また、インターネットリサーチなどからユーザーニーズを把握することも大切です。リリース後は自社アプリに関する多様なデータの収集が可能になり、広告やキャンペーンの効果測定として活用できます。
アプリのデータ分析では、データをどうやって取得し、どのように分析するかを理解することによって活用の幅が拡がります。まずデータ分析が必要な理由とデータ分析の3つの領域を取り上げます。
なぜデータ分析をしなければならないのか
競争の激しいアプリ市場で他社からの優位性を獲得するためには、ユーザビリティやパフォーマンスを徹底的に調べて他社と差別化し、優位性を獲得することが必要です。しかし、定性的な目標だけでは、達成度があいまいになります。したがって、数値を指標にすることで、アプリ開発の方向性が明確になります。成果を定量的に把握できることが、アプリ開発においてデータ分析が必要になる理由です。
データ分析の領域1:アプリのパフォーマンス
定量的な指標を立てやすい領域として、第一にアプリのパフォーマンスがあります。ログインに時間がかかりすぎたり、レンダリングなど特定の処理のレスポンスが遅れたりする場合には、ユーザビリティを低下させます。予期せずにアプリが終了するクラッシュの回数もアプリを評価する上では重要です。パフォーマンスの低下はユーザーの離反を招く原因になるので、気をつけなければなりません。
データ分析の領域2:ユーザーの属性と行動
次にユーザー像をデータ分析から把握します。会員登録を行うアプリであれば、利用者の年齢、性別のほか多様な属性のデータが得られます。どの機能をよく使っているのか、使う頻度の少ない機能は何かというように、ユーザーの行動をデータから分析します。アプリによっては利用時間や利用場所も分析すべき項目です。
アプリのリリース前の企画・設計・デザイン段階では、当然のことながらこれから作る自社アプリの情報はありません。しかし、インターネットリサーチや競合分析ツールなどを使って既存のアプリの情報を活用して、ユーザー像の仮説を立てるとよいでしょう。しかし、リリース後の運用段階で自社アプリのデータを収集すると、意外なユーザーに使われている場合もあります。結果としてユーザーが満足して使っているときは問題ありませんが、コンセプトが誤っていた場合、開発の方向性が誤っていた場合には、プロダクト開発の軌道修正が必要になります。
データ分析の領域3:マーケティング
最後にマーケティング領域のデータ分析です。最も基本的な指標として、ダウンロード数、インストール数、ユニークユーザー数、アプリ内課金の売上などのデータ分析があります。また、プッシュ通知やメッセージをどれだけ読んだかというコミュニケーションに関する分析もチェックします。
広告やキャンペーンなど流入経路のほか、コンバージョン率などもマーケティング分野のアプリ分析の基本です。継続的に使い続けてもらうためには、インストールして間もない時期に利用をやめてしまったユーザーがどれだけいるか、アップデートの時期における解約率(チャーンレート)も重要な指標になります。高いロイヤルティや満足度を示すエンゲージメントも重要な指標のひとつです。
アプリのデータは収集しようとすれば、あらゆる情報が取得可能です。しかし、開発のフェーズや抱えている課題に対して、最も重要なデータと指標に着目すべきです。また、たとえば90パーセントと10パーセントのような比率のデータがあったとき、どちらのデータを軸に据えて考察するかによって分析後のアクションが変わります。プロダクトの方向性全体を見渡して分析に臨むことが大切です。
プロダクト開発の3つの段階とデータ分析
パフォーマンス、ユーザー、マーケティングという領域のデータ分析を触れましたが、ここからはアプリ開発全体を「企画・設計段階」「デザイン・開発段階」「運用段階」の3つの流れで整理します。
アプリの企画・設計段階
最初の企画・設計段階は、アプリの方向性を定める段階になります。このときには、マーケティングリサーチによるユーザーニーズ、競合アプリの評価などのデータが使われます。ただし、どちらかといえば定性的な情報が中心です。使える定量的な指標としては、競合アプリの利用者数、評価数、ダウンロード数などになります。
アプリのデザイン・開発段階
デザイン・開発段階は、仕様が確定して実際の制作に入ります。デザインでは、2つのUIのプロトタイプを作ってどちらが使いやすいかテストすることがあります。いわゆる「A/Bテスト」と呼ばれる手法であり、このようなユーザビリティをチェックするためのデータ分析が考えられます。特殊なセンサーを使って瞳孔を検知し、画面上で視線の動きを記録する「アイトラッキング」という手法を用いることもあります。しかし、一般的なアプリの場合にはあまり使われていません。
アプリの運用段階
アプリが完成すると、ストアからのダウンロードを始め、ユーザーのさまざまな行動を追跡できるようになります。このとき分析ツールを使うとデータを可視化して、効率的に分析ができます。分析ツールには、無料で利用できる製品から、高度な機能を備えている有償の製品まであります。ベータ版を公開してバグの発見や使い勝手の悪い機能を報告してもらうケースもあります。ただし、ベータ版の公開で得られるのは定性的な分析です。
運用段階のデータ分析、活用のポイント
自社アプリのリリース後、つまり運用時から本格的なデータ分析が可能になります。したがって、ここでは運用段階のデータ分析にフォーカスして、活用のポイントを探っていきましょう。アプリのパフォーマンス、ユーザー像、マーケティングの3つの領域におけるデータ分析をフル活用することによって、ユーザー獲得とアプリの活用を促すための改善をします。
分析ツールを活用する
アプリから取得したログのローデータをExcelに読み込んで分析することも可能ですが、専門の分析ツールを使うと効率的に進められます。競合他社のデータを分析できるツールもあり、ほかのアプリのパフォーマンスをベンチマークとして自社アプリの比較もできます。多くの分析ツールにはデータをリアルタイムで可視化するダッシュボードを搭載しているため、直感的な状況の把握が可能です。広告やキャンペーンの効果測定にはMA(マーケティングオートメーション)と呼ばれるツールもあります。
一般的に使われている指標を理解する
マーケティングのデータ分析には、CPAやARPUなどの指標があります。指標に関する基本用語と算出式を覚えておくとよいでしょう。この指標は使える、使えないといった議論がされることも多く、分析のトレンドによっては新たな指標が登場することもあります。基本分析を理解した上で取捨選択します。多くの分析ツールでは、読み込んだデータから指標にしたがって自動的にグラフを描くことができるため、そのグラフが何を意味しているか、どこに着目すべきか、ポイントを押さえておくことが大切です。
オンボーディングの時間測定
クラウド上でアプリケーションを提供するSaaS業界では「カスタマーサクセス」と呼ばれるサービスが必須となりました。カスタマーサクセスとは、サービスの導入から基本機能を使えるようになるまでサポートを行い、顧客に成功体験をしてもらうことです。導入時のサポートを「オンボーディング」と呼びますが、特に業務用アプリなどでは使い始めてから使えるようになるまでの時間を測定し、短縮することが重要になります。
たとえば、アプリ自体に操作手順の流れを示すチュートリアルのマニュアル機能を付けることにより、ユーザーが使い方に迷う状態を軽減できます。このような機能追加が時間短縮に効果があったかどうか分析します。
さらに深い分析にはリサーチの実施
ユーザーのログを解析のほかに、さらに深い情報を得る手法としてインターネットリサーチが考えられます。受動的に収集したデータではなく、ユーザーに働きかけてデータを収集します。自社のキャンペーンに合わせて展開する満足度調査が一般的ですが、第三者の調査機関を利用すると客観的な評価が得られるとともに、競合アプリとの比較を調査できます。インターネットリサーチのメリットは、選択肢を設定して定量的な分析できるだけでなく、自由回答による定性的なコメントを収集できることです。
運用段階で知っておきたい基本的な7つの指標
特に運用段階のデータ分析のために知っておきたい基本的な7つの指標を解説します。
KPI
一般的な用語ですが、KPIは「Key Performance Indicator」であり、「重要業績評価指標」と訳されます。機能それぞれのKPIはもちろん、アプリ全体に対しても設定します。
DL数/インストール数
DLはダウンロードで、アプリのリリース後に確認すべき基本的な指標です。ダウンロードだけではなくインストールしてもらうことが重要です。自社のデータを日別や月別の推移で追跡可能であり、特定の期間におけるアプリのジャンルごとやOSのストア別、そして競合アプリとの比較ができます。
MAU/DAU
MAU(Monthly Active Users)は、ある特定の月に1回以上の利用があったユーザー数、DAU(Daily Active Users)は特定の日の利用者になります。解析ツールを使うと簡単に集計できますが、分析時においては単純に推移を追うだけではなく、広告出稿日やキャンペーンの実施時期、イベントやセミナーなどの展開、社会的に大きな変化があったイベントなどを時系列で重ねることにより傾向や影響を発見できます。
CPA
CPAは「Cost Per Action」または「Cost per Acquisition」の略。顧客獲得単価をいいます。広告を出稿して、どれだけ顧客を獲得できたかという指標です。インターネット広告にはさまざまなバリエーションがありますが、どのメディアや広告タイプが最も効果があったか計測できるため、効果的な媒体やターゲットにセグメンテーション(細分化)して出稿します。
ARPU/ ARPPU/ARPA
ARPUは「Average Revenue Per User」。ひとりのユーザーあたりの平均的な売り上げを示します。もともと通信事業者の月額課金で使われていた指標であり、その後ゲームや動画配信など幅広いアプリの指標として使われるようになりました。「ARPPU(Average Revenue Per Paid User)」は課金ユーザーあたりの平均な売り上げ高、「ARPA(Average Revenue Per Account)」はアプリを利用する1アカウントあたりの平均的な売り上げ高を示します。
LTV
LTVは「Life Time Value」で顧客生涯価値。さまざまな計算方法がありますが、基本的には購入単価×購入回数×継続期間で算出します。たとえばECアプリにおける顧客とのリレーションシップに注目すると、ヘビーユーザーが1か月使って利用をやめてしまうより、1ヶ月の利用回数は少なかったとしても3年間継続して使い続けるロイヤルティの高いユーザーのほうが売り上げに貢献します。
チャーンレート
チャーンレート(Churn Rate)は解約率。ある期間に失った顧客数÷期間当初の顧客数で算出します。LTVを向上させて継続的な利用者を増やすために重要な指標です。特にサブスクリプションのビジネスモデルでは、契約更新の時期やアップデートのときに解約率を抑えることが最優先すべきミッションになります。
まとめ
数値に基づいた管理はビジネスの基本です。アプリ開発のプロジェクトリーダーであれば日々データ分析を行って目標達成に努めていることでしょう。アプリ開発には、企画・設計段階、デザイン・開発段階、運用段階の3つの流れがあり、それぞれの段階に活用すべきデータがあります。利用者を拡大して継続的に使ってもらうためには、アプリのパフォーマンス改善はもちろん、ユーザーを知り、マーケティングを理解することが大切です。